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September 17, 2005

藤原咲子『母への詫び状 新田次郎、藤原ていの娘に生まれて』○

 満州からの壮絶な引き揚げ体験をつづった母ていのベストセラー『流れる星は生きている』に衝撃を受けた一人娘がつづる半世紀。著者の藤原咲子は後に「奇跡の赤ん坊」と呼ばれたその人である。咲子は『流れる星は生きている』を小学6年生のときに読み、「背中の咲子を犠牲にして二人の兄を生かす」「咲子はまだ生きている」などの表現に傷つき、以来、母の愛情を疑い、不信感にさいなまれながら暮らすようになる。
 四十年後、彼女は『流れる星は生きている』の初版本を実家の書庫で発見する。本には子どもたちにあてた、若い父と母のあたたかな言葉が記されていた。
 最終章で、認知症になった母に葬儀の準備をするよう言われた咲子は、懸命の抵抗をこころみる。だが、その言葉は母には届かない。

「お母さん、お母さん、何がしたい? どうして欲しい?」
 右手を私に預けたままの母の手を私は強引にひっぱり絶叫した。
「もういい、もういいから日本に帰ろう」
 大きく広がる、磨かれたガラス窓を背に、母はゆっくりと目を開き答えた。そして、わたしの手をほどき、鏡台に反射する赤い日の光をつかむように両手をのばした。(p.223)

 奇跡の赤ん坊は「生きててよかった」では終わらなかったのである。

★★★★☆(2005.8.28 白犬)

山と渓谷社 1400円 4-635-33038-9

posted by Kuro : 16:43

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