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August 18, 2005

町田康『浄土』○

 初出「文學界」など。
 あなたはどぶに立ち汚辱にまみれて立ちつくしている。一個のビバカッパをちゃんとちゃんと見なければ――腐った会議の成り行きで、単身ドブさらえをするはめに陥った悲しいカッパである〈俺〉を描く「どぶさらえ」ほか全7篇収録。
 文学賞に対する偏見のせいで町田康の作品を読むのは初。これが意外にもよかった。奇妙な愛らしさの漂う言葉のリズムを楽しみつつ、あっさりと読了。
 全篇甲乙つけ難いが、登場人物のべたなやりとりについ笑ってしまう「本音街」から引く。

 毎日、あほやうどんにまみれる生活している〈私〉はたまに本音街に行きたくなる。その日も〈私〉は本音街を訪れ、目についたカフェに入った。
 兄ちゃんがやってきて、「コーヒーを飲んだらどうですか」と言うので、「飲みます」と答えた。兄ちゃんはさらに、「ケーキを食べたらどうですか」と言った。
「なんで食べて欲しいのですか」
「お客がたくさん来ると思って張りきってたくさん作ったのですが、ぜんぜんお客がこないのです。売れ残ったら捨てることになって銭を損するので少しでも売りたいのです」と兄ちゃんは情けない顔をした。食べてやろうかと思って聞いた。
「そのケーキはうまいのですか」
「まずいです」(p.117)

 あっはっは。世の中こうでありたいね。次作期待。

★★★★☆(2005.7.8 白犬)

講談社 1600円 4-06-212986-8

posted by Kuro : 02:10

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トラックバック時刻: November 4, 2005 03:04 PM

comments

TBありがとうございました。
いつもこちらのブログ、拝見しています。
私も町田康は芥川受賞作の『きれぎれ』を読んで
何がおもしろいのかさっぱりわからず
それ以来だったのですが、この『浄土』は
おもしろかったですねえ。
白犬さんは“本音街”がお好きですか?
私は“あぱぱ踊り”が好きです。

投稿者 LIN : August 19, 2005 02:27 PM

はじめまして。
私も『浄土』読みました。ので、TBさせて頂きました。
相変わらずといえば、そうなんですが、やっぱり面白いですよね。
好きな人にはたまらない、という作家だと思います。
破天荒なストーリーも好きですが、
文章自体のリズムや節回しも実に魅力的ですよね。

投稿者 cite : November 4, 2005 03:44 PM

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