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March 12, 2005

山本甲士『とげ』●○

 2005.3.20初版。書き下ろし木端役人小説。『かび』(2003.6/小学館/★★★★)が面白かったので手に取ってみた。
 倉永は南海市市民相談室に勤める地方公務員。無能な上司と使えない部下に挟まれ、日々市民からの苦情に振り回されている。その苦情を処理すべく担当部署に連絡すれば「そっちでやっといて」。くたくたに疲れて帰宅すれば、なにものかが車のタイヤをパンクさせているし、子供ふたりの兄弟喧嘩は絶えない。ついには妻が交通事故を起こしてしまう。ストレスをためるいっぽうの倉永にふりかかるトラブルはそれだけではなかった。
 小市民鬱積ストレス暴発小説でもあります。爆発するのはわかっているので(それを求めて読んでいるのだから)、そこにどうやって持っていくか。そのプロセスが勝負だと思います。これは成功していると思う。どうしようもない上司や部下にはさまれ、現場でてんてこまいしている様子とか、すげえよくわかる(笑)。(笑)じゃねえよ笑い事じゃねえよまったく。ああ俺も上司某をこのようにしてあげたい部下某にこういって差し上げたい。
 いや、だから評価が高いってことじゃなくて(あはは、ほんとはその分、★半分ぐらいは上がってるか)。要は無理なくスカッとさせてくれるかどうか、説得力つきのスカッとさわやかであるかどうかなんですが。
 ラストのまとめかたは、もしかすると賛否あるかもしれません。私はけっこう好きだった。ああこういうのもいいかなと。
 消費者からの苦情を受けるというのは荻原浩の『神様からひと言』(2002.10/光文社/★★★☆)にもありました。いずれも、理不尽な要求や苦情に苦しめられるというところが似ていますが、でもやっぱり公務員にはあまり同情できなかったりして(笑)。とくに関西弁ばりばりの本書だと、どうしてもあの悪名高き大阪市役所を思い浮かべてしまいます。スーツまで支給されといて文句言うなと。
 そんなこといわれても著者も主人公も困ってしまうでしょうが。

★★★★(2005.3.1 黒犬)


 巨大ワニの化石が発見されて全国的な注目を浴びた南海市。市民相談室に勤務する永倉晴之のストレスはたまる一方。事なかれ主義の上司と使えない部下に挟まれ、市民の皆さんから寄せられるご相談に振り回される毎日。そんなある日、上司のひとりが不祥事で逮捕されてしまう。殺到するお叱りの電話、マスコミ対策――後始末に追われているとき、なんと妻が追突事故を起こしてしまう。なんでオレばかりに!! そんな永倉の身に新たな災難がふりかかる。
 読後、「地方公務員だって飛ぶときゃ飛ぶよ」という帯の文句に笑ってしまった。『かび』で一主婦を爆発させた著者だが、こんどの主人公は地方公務員。公私ともに追い詰められていく様は息苦しいくらいだが、この人、ときどき小爆発を起こす。これが痛快。たとえばこんなふうに。

「あんたが課長職っていうことのほうが不思議やぞ。おおかた、仕事そっちのけで幹部のごますりばっかりやってきたんやろ。下のもんからは陰で馬鹿にされてるのも気づかんで」
「何ぃ、それが上のもんに対する態度かっ、こらっ」
「じゃがまし、はげ。ばればれのづらかぶりやがって」
「な、何やとっ、貴様っ」
「黙れ、はげ」(p.123)

 あっはっは! いいなあ「ばればれのづら」。引き続き関西弁パワー炸裂でございます。抜こうとすればするほど深く食い込んで行くとげ。あなたならどうする?

★★★★☆(2005.3.10 白犬)

小学館 1700円 4-09-387551-0

posted by Kuro : 16:19

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嫌な雨だけど、電車通勤なら本を読めるってのがメリットだよねー。 てことで、「とげ」by山本甲士を読了。主人公・晴之は関西の地方都市で地方公務員を勤める男。... [Read more...]

トラックバック時刻: May 31, 2005 01:38 AM

comments

こんにちは。

今日はお願いにあがりました。
いま、「人前で読んではいけない」という企画(?)で
【爆笑編】や【号泣編】をお寄せいただいています。
今まで紹介された本の中で、そうった範疇に入る
記事がありましたら、TBしていただけたら、
大変うれしいのですが。

先月のことになりますが、
「恋のはじまり」がうまく分類できなくて
そのままになってしまい、すみませんでした。

投稿者 ahaha : March 13, 2005 10:52 PM

昨日は有難うございました。お手数をおかけいたしました。
今、トップページにリンクされていたサイトを開いてみたのですが、英語サイトというだけでハレホレハになってしまったのでございます。

投稿者 ahaha : March 15, 2005 10:02 PM

ahahaさま。

どうもでございます。えーと英語サイトってamaztypeですか? でもあれを開発したのは日本の人だそうですし、けっこう面白いので、「筒井康隆」あたりで試してみてくださいまし。画数が多い漢字の名前のほうが、なんかわけわかんなくなって面白いです。

投稿者 黒犬 : March 16, 2005 12:47 AM

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