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March 05, 2005

中島らも『酒気帯び車椅子』○

 初出『小説すばる』2004年3月号〜8月号。2004年7月に52歳で亡くなった中島らもの遺作。はじめてバイオレンスに挑んだ作品が遺作になってしまいました。
 家族と自分の体を壊された男の壮絶な復讐譚。中堅の商社に勤める41歳の小泉の楽しみは、愛する家族とともにとる夕食。会社で溜め込んだ不機嫌は馴染みの居酒屋「ひさご」でやっつけてから帰宅する日々。そんな家族思いの小泉が倒産寸前のゴルフ場を霊園にするプロジェクトをめぐり、暴力団系の不動産会社と渡り合うことに。やがて平穏な暮らしに不吉な陰がさし始め――。
 もう、なんというか。これほどベタな作品には近頃お目にかかったことがない。帯に「暴力と愛」とあるが、読後、これが語呂のいい「愛と暴力」じゃないことに深く納得してしまった。なぜなら、本作で描かれている「愛」は空疎なきっかけにすぎないからだ。馬鹿馬鹿しいくらい理屈抜きの暴力に満ち満ちている。そのうえエログロ、セクハラ満載でしばしば不愉快にさえなる。だけども、はちゃめちゃで下品なんだけれども、ふしぎと憎めない極めてまれな作品。ベタも行きすぎれば新機軸を築くことができるということなのだろうか。ま、それにしても、えげつないのが苦手な人にはおすすめしない。

★★★☆(2005.1.18 白犬)

集英社 1400円 4-08-774735-2

posted by Kuro : 18:56

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