宮部みゆき(みやべ・みゆき)
【長篇】
名もなき毒[weblog]
誰か
模倣犯(上・下)
ぼんくら
蒲生邸事件
【エッセイ・NF】
実業之日本社 1524円
2003.11.25初版。書き下ろし。現代ミステリーは二年ぶりだそうです。そういえば最近は時代ものとかファンタジーとかばっかりだったな。
“あなたの魂を揺さぶる”(帯)というのは大げさにしても、さすが宮部みゆき、読ませます。
大企業の会長の娘婿・杉村は、その会社の広報室に勤めている。ある日、舅である会長の運転手が交通事故――自転車に追突されて――で死んだ。遺されたふたりの娘は父親の思い出を本にすることで、犯人捜査の助けにしたいと言う。義父の命令で杉村はその娘に協力することになる。
主人公がなんだかのほほんとしているのでコージーミステリかと思わせるのだが、なかなかどうして中身は濃い。出版話に反対する姉と積極的な妹、父親の過去をたどるうちに見えてくる奇妙な違和感。運転手の事故死の裏にはなにか秘密があるのか。
ほんのささいな事件なのに、いろいろ読者を惑わせながら最後まで引っ張っていくテクニックはさすがです。そして、最後になるとちゃんと主人公に感情移入ができるのも、うまい。
小口とノドの余白が少なすぎて(そのくせ天地は空いている)落ち着かない文字組なのがイヤだったけど。
★★★★(2003.12.1 黒犬)
文藝春秋/文春文庫 476円
『R.P.G』絶好調の宮部みゆきの都市ミステリ7篇。
「人質カノン」コンビニで遭遇したピストル強盗。
「十年計画」女性タクシー運転手、殺人計画を語る。
「過去のない手帳」拾った手帳の持ち主が新聞記事に……。
「八月の雪」二・二六事件。
「過ぎたこと」むかし会った少年。
「生者の特権」死に損なった女。
「漏れる心」マンション売ります。
すべて偶然接することになった「わたしと誰か」の話。深夜のコンビニで強盗の人質になるOLを描いた「人質カノン」いい。表題作はだてじゃない。
★★★☆(2001.10.6 白耳)
2001.9.10初版。93年から95年にかけて書かれたミステリー短編集。96年に単行本化で、01年に文庫化。ずいぶん時間たってるね。
短編7本はいずれも安定感あり、読んでいて不安がない。さすがプロ、ですな。「漏れる心」みたいなのは、おもしろいなあと思う。マンション住まいだからかもしれないが。
★★★☆(2002.1.15 黒犬)
小学館 上下各1900円
2001.4.20初版。初出は「週刊ポスト」95年11月10日号〜99年10月15日号ですが、大幅加筆がなされているようです。それにしても……。
どうよ、上下巻で二段組。しかも724ページと704ページ。魂を抉る3551枚っていわれても、読み終わるまでにあれこれ抉る。長すぎるといえば長すぎるけど、いまこれだけ書いて許されるのは宮部高村の両巨頭だけかもしれない。それ以外の人だと、まず読もうという気にならないし(ああ、白川道上下巻も読まなくては)。男子はなにをやっているのか。
連続婦女誘拐殺人事件がメイン。そこにかかわってくる「死体発見者(にして過去の一家殺人事件の生き残り)」「被害者の祖父」「デスクと呼ばれる後方支援部隊の刑事」「失踪事件を追う女性ルポライター」「犯人」といった人々を、こまかくカットを割って書ききっている。すごいなあ、とただ感心。しかし読むほうは犯人もわかっているし、警察やマスコミが振り回されてばかりなので、なんとも歯がゆい。いらいら。
長大なくせに読後感があまりよろしくない(しょうがないんだけどね)のもちょっとな。でも、出色です。
それにしても誤植満載。もうちょっとなんとかしてほしいもんだ。
例をあげれば、
上p.43 マニュキア(マニキュア)
下p.274 小学校の時に転向してきた(転校)
下p.551 シュレッダー靴(屑?)
などなどで、他にもあったけど(鉛筆でチェックしちゃったよ)。ウェブで紹介されていて未確認のものには、「フソァ」「おふろく」「きれないな(きれいな)」などがあるんだとさ。この本を買うなら二刷以降でしょう(笑)。
★★★★☆(2001.4.1 黒犬)
売れてます。5万や6万ではなく「60万部」である。浜崎あゆみのニューアルバムの10分の1ではあるが、これがどんなにすごいことか携帯の出会い系サイトにはまっているギャルにだってわかるだろう。わかるもんか。冗談はさておき、さすが長者番付作家部門第3位である。その上は西村京太郎、赤川次郎大先生だが、来年あたりは抜かれるんじゃないのか。
公園のごみ箱から発見された女性の右腕。それは「人間狩り」という快楽を貪る犯人からの宣戦布告だった。連続誘拐殺人事件に巻き込まれる第一発見者の少年と孫娘を殺された老人。二人を待ち受ける運命とは――驚愕と感動の3551枚!
登場人物のほぼ全員が家庭的な問題を抱えており、それぞれが奇妙な縁で繋がって行く。「道なり」ということばがあるが、「読むなり」とでもいうか、関連が無理なくわかりやすい。直木賞受賞作『理由』同様、市井の人々に光を当てており、日常生活の描写や生活感に共感を覚える。豆腐屋の親父の一徹さ、また女性ライターの家庭生活がとくにいい。ただ、それだけに当世風サイコパスの描き方には疑問が残る。
以上、褒め評ばかりなのでケチをつけてみた。上下巻合計3800円(+税)が高いか安いかはあなた次第。
★★★★(2001.5.15 白耳)
講談社 1800円
2000.4.20初版。直木賞受賞第一作。「小説現代」96.3〜00.1の18回分に加筆・訂正+書き下ろしの長編時代小説。ボリュームあります。
長屋からひとりずつ人が消えていく。深川の鉄瓶長屋で連続する事件の謎に、奉行所きっての怠けもの、同心・井筒平四郎が挑む。煮売り屋のお徳、“養子見習い”の弓之助、神出鬼没の隠密同心・黒豆、深川の大親分の手下・政五郎、若き差配人・佐吉、“伝書烏”の官九郎と、なるほどたいへんわかりやすい「最強キャラクター」の活躍で、著者の脈々たる優等生っぷりに飽くことなく楽しく読める。『あやし〜怪』で引っかかってしょうがないかった「奉公人ふぜいが賢しすぎやしねえか」も気にならない。
テンポいい。ときおりうまい落語をきいているような気分になる。豆腐屋の夫婦、小柄で、豆によく似た丸顔のため「豆夫婦」と呼ばれており、夜遅く朝早い仕事にもかかわらず八人もの子どもをこさえ、その子らもことごとく「豆そっくり」、というところで思わず腹を抱えてしまった。
★★★★(2001.1.15 白耳)
角川書店 1300円
著者渾身の奇談小説集。初出「怪」ほか9編収載。先にいってしまいますが、買って損なし。舞台は江戸。江戸好きにはたまらない情緒満載で、ほんとうまいと思います。取っかかりの「居眠り心中」、あと“差配人”を扱った作品いい。
いやしかし、なんか宮部みゆきって、けなしちゃいけないような気になるんだが。うーん、でも読んでて、英語圏じゃないのに便宜上登場人物全員英語ぺらぺらの映画を見ているときのような気分になってしまうんですね。なんでだろう。現代語の用い方か、あるいは台詞か。当時「奉公人」がここまで明晰に喋っただろうか、なんて、いちいち引っかかってしまって。
★★★★(2000.9.25 白犬)
毎日新聞社 1650円
宮部みゆき久しぶりの長編。俺はけっこう好きだな、これ。タイムスリップものとしては近年では北村薫の「スキップ」がありますが、アレも悪くはないがこっちのほうが好き。とはいえそれは宮部みゆきの“うまさ”によるところが大きくて(北村もうまいのだが)、それがこちらの趣味に合っているってことでしょうね。さらに小林信彦の「イエスタディ・ワンスモア」の2部作のほうがさらに趣味に合っているんですが、それいいだしたらキリがない。とりあえずこれは評価しますってことで。(文春文庫版あり。)
★★★★(1996.10.7 黒犬)
last updated : 2006/10/23
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