【長篇】
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魔術師 〈リンカーン・ライム〉シリーズ
石の猿 〈リンカーン・ライム〉シリーズ
シャロウ・グレイブズ 〈ジョン・ペラム〉シリーズ
ブラディ・リバー・ブルース 〈ジョン・ペラム〉シリーズ
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エンプティー・チェア 〈リンカーン・ライム〉シリーズ
コフィン・ダンサー 〈リンカーン・ライム〉シリーズ
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ボーン・コレクター 〈リンカーン・ライム〉シリーズ
【短篇集】
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【エッセイ・NF】
四肢麻痺の科学捜査専門家《リンカーン・ライム》シリーズ第5作。前作『石の猿』と同じくホームタウンのマンハッタンで指揮を執る。
ニューヨークの名門音楽学校で殺人事件が発生。犯人はリサイタルホールに立てこもるが、駆けつけた警察官が出入り口を封鎖するなか、忽然と消えてしまう。科学捜査専門家のリンカーン・ライムと鑑識課警官のアメリア・サックスは、犯人にマジックの経験があることを突き止め、イリュージョニスト見習いのカーラに協力を求める。
これはこれは。いやあ参りました。シリーズ5作目ともなれば、おなじみの登場人物もどこかしら鼻につくし、手の内も最初からばればれなわけだから、読むほうはどうしてもダレる。だが、本作に関してその心配はない。
ミステリにかぎらず、小説を読む楽しみに「知る」ことがある。本シリーズでいえば最先端の科学捜査だろう。それともう一つ、作中の彼らとともに知ること。本作ではそれがイリュージョン及びイリュージョニストなのだから、登場人物の成長や人間関係などすっ飛ばして種明かしを知りたくなる。
たとえばカーラがライムや捜査メンバーにイリュージョニストのテクニックのひとつ「誤導(ミスディレクション)」を説明しながら実演してみせるシーン。
誤導とは、観客に見てもらいたい場所に注意を引きつけることによって、見てもらいたくない場所から遠ざけておくということです。(中略)観客の目は、見慣れたものには向かず、見慣れないものに向けられる。似たようなものがいくつ現れても注目しないけれど、それまでと違ったものが出てくると、とたんに注目するんです。(p.90)
そして数秒後にカーラはまんまとサックス巡査のホルスターから銃を半分抜いている。言われてみればな〜んだと思うようなことだが、得をしたような気分になる。華やかでスリリングな約500ページ。読み応えあり。もしかしたら本書はマンネリを避けるためのディーヴァーの誤導なのかもしれない。次作おおいに期待。
▽《リンカーン・ライム》シリーズ既刊リスト
『ボーン・コレクター』(1997年発表/文春文庫)
『コフィン・ダンサー』(1998年発表/文春文庫)
『エンプティ・チェアー』(2000年発表/文藝春秋)
『石の猿』(2003年発表/文藝春秋)
『魔術師』(本書)
不法移民はすでに世に亡き者たち。蛇頭に金を払わなければ殺される。文句を言えば殺される、この世から消えたきり、二度と見つからない――ニューヨーク郊外ロングアイランド沖で中国からの不法移民を乗せた船が爆破された。生き延びた移民たちを抹殺すべく行方を追う蛇頭“ゴースト”。ゴーストを追うライム。はたして移民たちの運命は――。
四肢麻痺の科学捜査専門家《リンカーン・ライム》シリーズ第4弾。前作『エンプティー・チェア』では田舎に遠征したライムだが、今回はホームタウンのマンハッタンで指揮を執る。万全の介護設備のもとでのお仕事というだけでなんだか安心。一方、いまや市警一の鑑識捜査官となったアメリア・サックスは、シリーズ4作目にしてもっともヘヴィなお仕事と思われる水深30メートルの海底に沈む船内での鑑識に挑む。閉所恐怖症の読者にはたまらないシーンだろう。
今回はとくに中国公安局刑事ソニー・リーいい。全体的に中国人の描き方があまりにも型通りなのが気にはなるが(指圧や風水に通暁しており、くさいお茶を飲んでいる)、彼に関しては皆に敬遠される喫煙癖さえもチャーミングに描かれている。おもしろい長篇を探している人におすすめ。
2003.2.28初版。ではあるが、95年7月に出た『死を誘うロケ地』の改訂版。
というわけで、これがディーヴァーが“ウィリアム・ジェフリーズ”名義で書いた《ジョン・ペラム》シリーズの第一作で、第二作目が『ブラディ・リバー・ブルース』、そして最後に『ヘルズ・キッチン』となるわけですな。見事に逆順の刊行になにか意味があるんだろうか。まあ本作は改訂版なので、しょうがないけど。しかし三部作で四作出てるように誤解させる説明はいかがなものか(『ヘルズ・キッチン』解説)。
で、事件はもちろん映画のロケ地。相棒とロケハンに来ていたペラムが、ニューヨーク州のさびれた田舎町クリアリーで事件に巻き込まれる。最初は彼じしんが交通事故に遭う。そして相棒マーティが事故死。しかし事故にしては不審な点が多い。真相を探ろうとするペラムにさらなる魔の手が迫る――。
田舎町に潜む巨大悪というのが、ちょっとピンと来ないんですが、シェーンよろしく滞在地の子供と交流し銃のあつかいかたを教えたり(いいのかそんなことして)がほほ笑ましい。『ヘルズ・キッチン』の少年に比べるとイイコちゃんすぎて不自然ですが。
でもって、またまたちょっと違和感な翻訳。
ブドウ入りのロールパン (p.116)
レーズンじゃなくて、ブドウなの?
「ロイヤルフラッシュみたいな?」(p.169)
ストレートフラッシュもしくはロイヤルストレート、ロイヤルストレートフラッシュ? ロイヤルフラッシュって、ええとたとえばエースが入ってるフラッシュとかなんでしょうか。
しかし三作とも訳者が違うんだなあ。今回の人はまあ普通でしょうか。『ブラディ〜』がひどすぎたしな。
2003.1.31初版。原著は1993年。映画ロケーション・スカウト《ジョン・ペラム》シリーズ。2作目、ということになるのかな。『ヘルズ・キッチン』の前。
ペラムは本業のためにミズーリに滞在中。たまたまビールを持って歩いていたら、車のドアが急に開いて落としてしまった――というところからトラブルは始まった。彼は殺人事件の犯人を目撃した、とされて、警察、FBI、殺し屋に追いかけまわされる羽目に。
ストーリー自体はシンプル。可もなく不可もなく。殺し屋に撃たれて半身不随になった警官とペラムとの交流がいい。
しかしどうも文章にひっかかる。翻訳のせいか。前のやつはこんな変じゃなかったと思うんだがなあ。と思ったらやっぱり翻訳者は別の人でした。以下、数例揚げ足をとってみる。
硬い剛毛が吸う保温、ブラシから抜けて床に墜ちた。(p.101)
「剛毛」って「硬い毛」のことじゃないんですか?
手を拭いてウィネベーゴの前方へ歩いていき、前方のドアのわきにある地図部屋を開けた。(p.110)
「前方」を繰り返して違和感ないのかこの人は。
「百五十ドル、調達できるか?」(p.319)
150ドルじゃ映画はできません。p.122でちゃんと「百二十か百五十万ドルだったら」って書いてあるしい。
「看護師さんはもっとよく花の世話をしないとね」(p.381)
セリフの中まで政治的に正しくしなくてもいいような気がするがなあ。しかも一般人のセリフだし。
プラスティック製の三次元眼鏡(p.444)
なにそれ、と一瞬戸惑ったのは俺だけ? しばし考えて3D眼鏡のことかとわかりましたが。たしかに三次元かもしれないが、普通の眼鏡だって三次元なんじゃ?
ライムを筆頭に、スタントマン、監督、殺し屋(p.501)
これは関口苑生の解説のなかなので翻訳者には罪なし。主人公の名前ぐらい間違えないでほしいです。ペラムだっちゅうの。
翻訳者、編集者、校正者の誰が一番悪いのかわかりませんが、話の内容より、読むのを阻害する些細なミスのほうが気になってしまった。
てなわけで、精進せえよ早川書房。
2002.12.31初版。Jeffery Deaver writing as William Jefferiesというわけで、今をときめくジェフリー・ディーヴァーが“ウィリアム・ジェフリーズ”名義で書いたサスペンス。原著(c)は2001年。
主人公ジョン・ペラムは、元スタントマンで元映画ロケーション・スカウトで、本作ではドキュメンタリー映画を撮影中の監督兼カメラマン。このシリーズは『死を誘うロケ地』からはじまっていて、これが三作目らしいです。早川はこのシリーズの版権を取得した模様で、03年1月に『ブラディ・リバー・ブルース』、2月に『シャロウ・グレイブズ』が刊行予定。解説には「シリーズ三作目で完結編」、とあるが四作になってしまうのでは。どうでもいいが。
舞台はマンハッタン西部、ヘルズ・キッチン。ペラムが撮影している住人エティ・ワシントンのアパートが放火される。被害者なのに容疑をかけられたエティを救うため、ペラムは調査を開始する――。
別名義で書かれていてもやはりディーヴァー、ジェットコースターでばりばり読ませます。なんとなく軽い感じもするけど。
2002.11.10初版。原著(c)は2001年。
ライムのシリーズもちゃんと読んでないのにな、俺。しかしやっぱり文庫のほうが手軽に読めるし。しかし各社で新しいのとか古いのとかどんどん出すからわけわからんですよ。
で、これは2001年の作。
コンピュータクラッカーによる猟奇殺人を解決するため、服役中の天才ハッカーが呼び出される。刑務所から一時的に釈放し、捜査に協力しろというわけだ。
電脳空間を自在に動き回り、自らの正体はもちろん居所も隠し、他人のPCやファイアウォールに守られたネットに侵入し、情報を盗み出し、他人になりすまし、そして被害者に忍びよる。目には目を毒には毒をハッカーにはハッカーを、というわけで招集された受刑者ジレットは、どうやって犯人に立ち向かうのか――。
さすがディーヴァー、面白いです。コンピュータの知識がゼロでは楽しめないだろうけれど、普通に使う生活をしていれば、なんとなくわかる(どうせ架空のソフトウェアだのなんだのが出てくるんだから、その程度の知識で充分)。それでもサスペンスは充分。最後まで飽きさせません。
『マトリックス』のプロデューサーが映画化をもくろんでいると訳者あとがきにあるが、しかしこれ、パソコンの画面ばっかりの映画になっちゃわないですかね。
護身術のHPを主宰するシリコン・ヴァレーの有名女性が惨殺死体で発見される。ハッカーの犯行と断定した警察は、服役中の天才ハッカー、ジレットに協力を要請。厳しい監視のもと、静かで熱い闘いがはじまる。
ディーヴァーといえば四肢麻痺探偵リンカーン・ライムシリーズだが、本作はそのシリーズを離れた作品。とはいえ、例によって偉大なる専門職ストーリーであることにかわりはない。今回の専門職はハッカー。つまりコンピュータの話である。冒頭の用語解説にたじろく人も多かろうと思うが、さほど難解ではない。ただ、わたし程度の電脳知識だと、ストーリーそのものより、ハッカーと呼ばれる人々の世界を垣間見たという充足感のほうが大きく、作品としての印象は薄い。
手術のためにノースカロライナ州パケノーク郡の田舎町を訪れていた、四肢麻痺の科学捜査専門家リンカーン・ライムは、保安官ジム・ベルの要請を受け、町いちばんの問題児“昆虫少年”が起こした連続誘拐事件の捜査に協力することになる。捜査助手は恋人でもあるアメリア・サックス。だが科学捜査に不慣れな地元警官や臨時の鑑識助手は、ニューヨークの精鋭チームに比べればあまりにも無能。数年ぶりという猛暑のなか、遅々として捜査は進まず――。
〈リンカーン・ライム〉シリーズ最新刊。映画化された『ボーン・コレクター』、『コフィン・ダンサー』に続く偉大なる専門職ワンパターンストーリーと思いきや、このたびはそうでもない。臨時の鑑識助手として登場する海洋社会学専攻の大学院生ベンと、バカ大嫌いのライムが科学捜査を通じて打ち解けてゆく過程いい。手の内を知り尽くしているアメリアとの頭脳対決にいたってはページを繰る手が止まらない。ジェットコースター・サスペンス474ページ、買って損なし。
余談。本シリーズは主人公が身体障害者というすごい設定だが、前半にこういう記述がある。
しかしライム本人は、ダヴェットの無遠慮な態度を歓迎していた。(中略)このタフな実業家が彼の目をまっすぐに見て、あなたは間違っているとずばりと言ってのけたとき、そう感じた。(中略)ダヴェットの目に映るのは、ライムの行為、ライムの決断、ライムの考え方だけなのだ。体に障害があろうが、ダヴェッドは気にしていない。ドクター・ウィーヴァーの魔法の手は、いまよりもっと多くの人がダヴェッドのように接してくれる状態に彼を一歩近づけてくれるに違いない。(p.116)
大切なことはいつもこういうところに書いてある。たかが作り話にも学ぶべきことはある。わたしは小説の可能性を信じたい。
池田真紀子・訳 文藝春秋 1857円
《リンカーン・ライム》シリーズ第2弾。武器密売裁判の重要証人が航空機事故で死亡。NY市警は殺し屋“ダンサー”の仕事と断定、四肢麻痺犯罪学者ライムに捜査の協力を依頼する。大陪審の証言まで残り時間は45時間。
『ボーン・コレクター』から続く偉大なる専門職ストーリー。伏線と騙しは前作をしのぐと思う。丁寧に読めば楽しさ倍増。長い夜におすすめ。
大晦日の午前9時、ワシントンで乱射事件発生。市長宛に「正午までに身代金を払わなければ無差別殺人を繰り返す」という脅迫状が届く。予告犯行時間は午後4時、8時、そして零時――手がかりは手書きの脅迫状だけ。FBIは筆跡鑑定の第一人者パーカー・キンケイドに出動を要請する。
『ボーン・コレクター』と同じく、偉大なる専門職ストーリー。ぐいぐい読める。ほっとしたのも束の間、なんだこの残りページの厚みはっ。リンカーン・ライムもちらっと登場。このボリュームで千円以下とはおそれいる。買って損なし。
2000.9.1初版。原著(c)は1999年。ディーヴァーひさびさの新作だい。
すげー面白かったっす。さすが。
今回は元FBI文書検査官パーカーが主人公。リンカーン・ライム(『ボーン・コレクター』)はちらっとだけ友情出演。舞台は大晦日のワシントンDC。市長宛てに、金を出さないと無差別銃撃で市民を殺すという脅迫状がとどき、まずは地下鉄の駅で乱射事件。四時間おきにまたやるぞというわけで、FBIはおおわらわなのであった。で、すでに職を退き民間の文書検査士をやっていたパーカーに白羽の矢が。バツイチ子持ちのお父さんとしては、子供をほっとくわけにもいかず一度は断わるのだが、ま、もちろん関わることになるわけですね。で、脅迫状を分析して犯人を追いつめようとするのですが、そう簡単にはいきません。
これは読むしかないでしょう。「なぞなぞ」や「奇跡をおこす男ケイジ」、パーカーの私生活における苦難、パーカーのパートナーとなる女性捜査官の過去、銃撃犯の〈ディガー〉、市政のごたごた、マスコミ対策、などなど、おいしいネタがぎっしりつまっています。読んで損なし。
できれば大晦日に読みたかったかも。
それにしても、ディーヴァーの不幸なところは、残りのページ数をみて、あとの展開が予想できてしまう(あと何回どんでん返しがあるかとか)ってところでしょうか。しょうがないんだけどね。
今年はライムのシリーズがもう1本刊行されるとか。これまた楽しみです。
2000.2.15初版。原著は1995年。
あの「ボン・コレ」ディーヴァーの出世作。これは面白いっす!
刑務所からの脱走犯が、スクールバスに乗った聾学校の生徒と先生を――つまりみんな耳が聞こえない――誘拐し、使われなくなった食品工場に籠城。ただちにFBIの“交渉担当捜査官”(ネゴシエーターってやつですか)ポターが呼ばれ、主犯の悪者ハンディと携帯電話で交渉。犯人とのあいだに意図的な絆をつくりあげ、なんとか人質を救おうとするのだが、そのやり方に不満な州の警察やらなにやらが邪魔してきたりするんでした。
いやあ満足。すごいねこのひとは。
「ボン・コレ」では鑑識のスペシャリスト(ただし五体不満足)に相棒が女刑事、「静寂」では交渉のスペシャリストに相棒は州の若手警部補。なんとなくこのひとのスタイルがわかります。アメリカの真保裕一か(笑)。「静寂」ではさらに、人質となった聾学校の教育実習生メラニーが重要な役割を演じることになる。さいしょはおろおろするばかりでティーンエイジャーの生徒にすらバカにされる彼女だが、生徒を逃がすべくしだいに成長(っていうのかな)していく。最後にはもう大変な活躍なのであった。
なにしろ最後の最後まで気が抜けない。これは読まないと損!
しかし、「眠れぬイヴのために」を先に読もうとか思ったりしていたんだが、これ、前に読んだことあんじゃん俺。メモしてないようでいつのことかわからんが。俺の記憶力ももうダメだわ。
★★★★★(2000.3.4 黒犬)
池田真紀子・訳 文藝春秋 1857円
1999.9.20初版。原著は97年の作品。
うわさにたがわず……おもしろいッ。身動きとれない天才警官(元)とその手足になって捜査にうごく女性巡査という組み合わせは、『羊たちの沈黙』を想起させます。レクター博士は五体満足だけど獄中だったから身動きがとれない、このリンカーン・ライムという人は捜査中の事故で全身不随になってしまっていて文字通り身動きがとれないという違いはあるけど。
犯人が現場に残した(しかも意図的に)わずかな証拠から、連続殺人の次の犠牲者を救出しなくてはならない。女性巡査サックスは、たまたま最初の犠牲者を発見したことから関わり合ってしまい、ほんとは平和な広報部に異動のはずが、ずるずると鑑識仕事に巻き込まれるわけでした。
この犯人がまた、サイコでイタい方法で犠牲者を殺していくんですが、あたしゃ自分で舌噛んで死にますねきっと。
とても映画的というか映像的。しまいにゃ感動的。今年のベストだというのもうなずけます。
last updated : 2005/11/18
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