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November 09, 2007

最相葉月『星新一 一〇〇一話をつくった人』○

 過日、エレベータに乗り合わせた女子中学生が一心になにかを読んでおり、表紙を見たらなんと星新一の本ではないか。思わず「星新一すきなの?」と声をかけたら「はい」と素直な返事がかえってきた。「わたしもすき」とわたしは言い、本を胸に抱いた彼女と静かにほほえみあったのでした。
 第29回講談社ノンフィクション賞受賞作。担当編集者やSF作家など関係者134人への徹底取材と膨大な遺品や資料を精査し、「ショートショートの神様」と呼ばれた作家、星新一の実像に迫る。
 本文だけでも500ページ超の力作。星新一といえば、いままで誰も書かなかったということがふしぎなくらいの大作家ではあるが、これほど精密な評伝が出てくるとは。もうね、まさにしらみつぶし。あまりに細かすぎて途中で眠くなってしまうため、前半をクリアするのに足かけ5日ほどもかかった。星“親一”の生まれ育ち及び星製薬の栄枯盛衰などの背景や周辺事情がつまらぬと言っているわけではない。作家・星新一を語るにおいては必要不可欠である。
 しかしながら、がぜん面白くなってくるのは彼が専業作家になってからで、「インスタントラーメンじゃあるまいし、アイディアなんてものは、そう即席に大量生産できるもんじゃない」「読むほうは短い時間で楽しめてよいだろうが、創る側はたいへんだ」などの愚痴めいた談話のような、いわば創作裏話はやはりいい。SFが現代小説の新ジャンルとして認知されて行く過程もひじょうにおもしろく読んだ。スター作家の知られざる人柄や、家庭人としてどうであったかなどの肉付けもじゅうぶんで、だからこそ、終盤の1001編達成に向けたラストスパートから達成までを描いたくだりは胸に迫るものがある。この内容で2300円はお買い得。

★★★★☆(2007.10.26 白犬)

新潮社 2300円 978-4-10-459802-1


posted by Kuro : 22:47

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