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June 17, 2007

森浩美『こちらの事情』●○

 2007.4.25初版。初出「小説推理」2006年7月号〜07年2月号。短篇8本収録の小説集。著者は放送作家・作詞家で、小説は本作が2作目だそうだ。
 ……えーと、ダメだこりゃ(笑)。帯の「作家・佐野洋氏激賞!」に騙されました。内容と文章、両面においてダメダメで受けつけなかった(最後まで読んだからまあ星は1つぐらい)。佐野先生、ミステリーについてはスルドいけども……(苦笑)。
 内容は……普通の人々の普通の生活。夫婦関係あり、親子関係あり、仕事関係あり。一番最初に受けたのが《重松清の劣化コピー》という印象。
 不動産会社に勤める男が住宅地開発の責任者となり説明会に出向いた先で少年と知り合う。父親のいない少年と、息子をもてなかった中年のささやかな繋がり。結びつける小道具はもちろん“キャッチボール”だ(「靴ひもの結び方」)。熟年離婚を求めてきた妻がぎっくり腰で入院する。夫は妻のためにパジャマを買いに行き、夫婦の若かりし頃を思い出す(「妻のパジャマ」)。年老いた母親を老人介護施設に送り届ける息子の話、中学生の娘と喧嘩して険悪な雰囲気のまま家族日帰り旅行に出かける父親の話、リレー選手に選ばれたのに自信をなくしてやめたいという息子とそれを勇気づける母親の話、……まあ要するに、そんなような《家族愛》に満ちたお話集なわけですよ。新味ゼロ。いずれもどこかで聞いたような話ばかり。この作詞家さんが何歳かはしらないが(83年に作詞家デビューってことは当時30歳として今50代なかばぐらい?)、よくもまあこれだけ凡庸な話ばかり並べたものだ。
 それでも文「芸」として、巧みな描写でもあればいい。読んでいて気分よく物語の世界に引き込んでくれるならまだいい。ところがそれも、ない。文章がひどい。ひどい、というのはいいすぎか。しかし私はどうにも生理的に受けつけなかった。なにしろ会話がやたらくどかったり、あるいは三点リーダーで余韻をあらわしてみたり。たとえばこの、休日に少年とキャッチボールをしにいき、その母親もまじえてファミレスに入ったのを娘に目撃されて嘘がバレたシーン。

「春先に男の子と偶然出会った。女性はその子の母親だ。紗香が思うような関係じゃない」
「そんなの絶対嘘っ」
「本当だ。パパは……。パパはな、あの子とキャッチボールをしていただけだ……」
「キャッチボール……」妻が微かに聞こえる声で呟いた。
「朋美、すまん……。オレはその子とキャッチボールがしたかったんだ。でも、それをお前には知られたくなかった……」(「靴ひもの結び方」p.41)

 どうですこの「……」の連発。下手な作家が多用するんだよね、「……」って。

「それは、お母さんがやらせたかったからだろっ」
「うっ」図星だ。(「晴天の万国旗」p.141-142)
「うーん、じゃあ、とりあえず新しいシューズ買ってくれる?」
「まっ、ホント現金なんだから。いいわよ、買ってあげる。ナイキでもアディダスでも、好きなものをね」(同p.161)

 「うっ」ってわざわざカッコに入れて書きますか。なんとも気恥ずかしい。もうちょっとセンスよく会話を運べないものかなあ。あ、放送作家だから、役者が口に出すことはぜんぶ書かないと気が済まないのか。ま、そんなわけで、重松清にはほど遠い、困ったちゃんな本でした。

★(2007.6.10 黒犬)


 初出「小説推理」2006年7月号〜2007年2月号。

この短編集を読みながら、何度か目頭が熱くなった。
読み終わって、作者が「人生の達人」であることを確信した。(帯)

 って、本気で言ってるんですか佐野洋先生。
 夫婦や家族をテーマとした、どうということもない8編を収録。ありがちな、わかりやすい、ベタなエピソード満載の作品ばかりで、残念ながらどの作品も記憶に残らない。
 著者は男性。本書のプロフィールをはじめ、ネット上のどこを見ても生年および年齢の記載はないが、放送作家を経て、作詞家・文筆家としてマルチな活動をしており、作詞家としての作品総数は700曲超、荻野目洋子『Dance Beatは夜明けまで』、田原俊彦『抱きしめてTONIGHT』をはじめ、SMAPの『青いイナズマ』や『SHAKE』、KinKi Kidsやブラックビスケッツなどのミリオンセラーを手がけている、かなりすごいひと。わたしが知らないだけで、すでに根強いファンがいるのかもしれない。
 蛇足ながら。
 カバーイラストに描かれている犬は、本書収録の「甘噛み」に出てくるエアデールテリアだと思われるが、テリア系最大とはいえ、連れている人間に比してデカすぎである。

★★(2007.7.16 白犬)

双葉社 1500円 978-4-575-23577-7

posted by Kuro : 23:46

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