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May 19, 2007

安達千夏『見憶えのある場所』○

 初出「すばる」2006年6月号。98年に『あなたがほしい』で第22回すばる文学賞を受賞した安達千夏の家族小説。四歳児をかかえてパート勤めをするシングルマザーのゆり子と、還暦をすぎてなお自己実現という幻影にとらわれ続ける母、菜穂子の壮絶な母娘関係を中心に描く。
 力作である。母の菜穂子は、当時としてはめずらしい有名商社の女性総合職として活躍した輝かしい経歴をもつ。だが男社会の壁はまだまだ厚かった。結婚し、第二子を妊娠した時点で周囲の重圧に屈しやむなく退職。育児や家事もりっぱな社会参加だと心に決めて専業主婦の道を選ぶが、ある日、泣きやまない娘を殴ったことをきっかけに、それまで押さえつけてきた自尊心が暴発。結果的に、二人の子のみならず夫をも排除するにいたる。早々と逃げを打った夫と息子に対し、母の憤懣のはけ口になりながらもただひとり、生活のために関わらざるを得ないゆり子。極端なキャラクター設定やエピソードが昼ドラふうではあるが、女家族の愛憎の連鎖がきっちり描き込まれている。次作期待。

★★★★(2007.4.5 白犬)

集英社 1470円 978-4-08-774838-3


posted by Kuro : 17:04

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