« ピーター・ラヴゼイ『最期の声』○ | Blog Top | 藤原伊織『ダナエ』○ »

April 03, 2007

ジェフリー・アーチャー『ゴッホは欺く(上・下)』○

 9.11テロ前夜、イギリスの名門貴族ウェントワース家の女主人ヴィクトリアが何者かに殺害される。犯人はヴィクトリアの耳を切断し、美術品コレクターとして知られる銀行家フェンストンに送る。ウェントワース家はフェンストン・ファイナンスに多額の融資を受けていた。そして翌朝。フェンストンのもとで美術コンサルタントをつとめるアンナ・ペトレスクが、WTCノースタワーの一室で馘首を言い渡された直後にアメリカン航空の旅客機が94階に激突する。その日アンナはウェントワース家の所蔵品であるファン・ゴッホの自画像について話し合うためにロンドンに飛ぶ予定だった。
 ああ、おもしろかった。崩落するWTCから命からがら脱出した美貌の美術コンサルタントが、あまりにもあくどい元雇い主からイギリス名門貴族ならびにその財産を守るべく東奔西走する。書き出しからしてゴージャスである! 偽証罪でムショ暮らしをしたことがあるとはいえ、一代貴族(ロード)の称号はだてじゃない。プロットを決めないでどしどし書くという創作スタイルにも深く納得。これくらいの巨匠になると筆のほうでつじつまを合わせてくれるようになるのだと思われる。
 本作でもっとも興味深いのは、世界各地をめぐる物語の舞台が東京にも及ぶところだ。まず日本最大の鉄鋼会社の社名が「マルハ鉄鋼」というのにシビれた。実在の地名や施設名もたくさん出てくる。主人公アンナの宿泊先がホテル西洋銀座というのには意表を突かれたが、これは著者自身が来日したときの滞在先だったという理由かららしい。それにしたっていちおう星のつく高級ホテルである。ヘッド・コンシェルジュがたったの50ドルで顧客情報を漏らしてしまうのはまずいだろう。ほかにもつい笑っちゃうようなシーンが少なからずあるが、日本と中国を混同しているような人々に比べればりっぱである。日本通といっても過言ではない。こまかいことは気にしないで読み進もう。

★★★★(2007.3.9 白犬)

"False Impression" by Jeffrey Archer 永井淳・訳 新潮社/新潮文庫 上・下各629円 978-4-10-216125-8978-4-10-216126-5


posted by Kuro : 01:00

trackbacks

このエントリーのトラックバックURL:
http://dakendo.s26.xrea.com/blog/mt-tb.cgi/324

このリストは、次のエントリーを参照しています: ジェフリー・アーチャー『ゴッホは欺く(上・下)』○:

» 「ゴッホは欺く 上下」ジェフリー・アーチャー著 from 日々のつぶやき
とても久しぶりのジェフリー・アーチャー氏の新刊です?? 面白い・・のですが、今までと違って随分と字が大きく行間が広いような気が・・これなら上下巻に分けずに一冊... [Read more...]

トラックバック時刻: April 3, 2007 09:37 AM

» ゴッホは欺く from higeruの大活字読書録
 本年5人目の初物作家。見るのはほとんど洋画(と言うよりハリウッド映画)だが、読む方では『デセプション・ポイント』以来の洋モノである。ジェフリー・アーチャーとい... [Read more...]

トラックバック時刻: April 6, 2007 08:41 AM

» ゴッホは欺く ジェフリー・アーチャー from "やぎっちょ"のベストブックde幸せ読書!!
ゴッホは欺く 上巻 ゴッホは欺く 下巻 ■やぎっちょ書評 ジェフリー・アーチャー釈放後の1冊目。05年に書かれたようですね。 彼は今後は政治家復帰は無理... [Read more...]

トラックバック時刻: May 8, 2007 07:08 PM

comments

コメントをどうぞ。




保存しますか?