« 香山リカ『スピリチュアルにハマる人、ハマらない人』○ | Blog Top | 『文藝春秋』2007年2月臨時増刊号〈特別版〉○ »

January 20, 2007

香山リカ『老後がこわい』○

 このうえもなく直截なタイトルが目を引くが、「ひとりで一所懸命仕事をしてきたのに、私になにが残ったのだろう」という宣伝文句からもわかるように、おもに独身女性向け。著者みずからの現状に照らした構成で、そのときどきの実感がこもっていて、説得力がある。第1章の「だれが喪主になるのだろう……」という問いかけからして考えさせられる。
 いまの時世にあれば、だれもが老後に不安をかんじたり悩んだりすると思う。わたし自身、考えれば考えるほど暗い気持ちになる。いつだったか、介護施設のドキュメンタリー番組を見ていて、食事の時間が待ちきれず、ぶうぶう文句をいいながら箸で茶碗を叩いている老人たちの姿に心底ぞっとした。ああは絶対になりたくないと。しかし、はからずもなっちゃったらどうしようかと。本書のテーマはそうなる前の話。
 仕事からの引退のタイミングから始まって、老親の介護の問題、自身の病気の受け入れ方と治療、そしていよいよ自身の死の準備まで、女一人、どう手を打って行くか。だけども人間、明日どうなるかわかんないのだから、いってしまえば可能性の模索である。そんなとりとめもないようなことをキッチリまとめるために、著者はじぶんを物差しにしたのかもしれない。なかでも、わたしがなにより共感をおぼえたのは、ペットについて書かれた部分。人の死にまつわる諸問題と同列に扱い、丸々一章を費やしている。下はその第七章の冒頭。

 恥をしのんで未熟さ丸出しのことを書くことにする。私には、親の死よりもさらに恐ろしいものがある。それは、これを文字にするのもかなりの勇気がいるのだが、「ペットの死」である。(「第7章 ペットを失うとき」p.116)

 ひとかどのおとなでありながら、そして逡巡しながらも、こうして発表された勇気にエールを送りたい。

★★★★☆(2007.1.4 白犬)

講談社/講談社現代新書 700円 4-06-149852-5

posted by Kuro : 01:26

trackbacks

このエントリーのトラックバックURL:
http://dakendo.s26.xrea.com/blog/mt-tb.cgi/295

comments

コメントをどうぞ。




保存しますか?