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December 09, 2006

ヴィカス・スワラップ『ぼくと1ルピーの神様』○

 クイズ番組で史上最高額の賞金を獲得したために不正を疑われて逮捕された青年の話である。賞金額は10億ルピー。1ルピー2.6円で計算すると26億円。なんだ、と思うお金持ちがいるかもしれないけど、物語の舞台はインドですぜ旦那。マハラジャも真っ青でしょう。
 孤児で学校教育もろくに受けたことがない18歳のウエイター、ラム・ムハンマド・トーマスはいかにして13の難問に正解することができたのか。
 ヤングアダルト小説を彷彿とさせるような、ほのぼのとしたタイトルとカバーイラストだが、描かれているのは主人公トーマスの過酷にして波瀾万丈の来歴である。人口爆発、政治腐敗、宗教対立、貧富の差、売春や暴力など、さまざまな問題をかかえる現代のインド社会を、機知と運だけでしのいで行くトーマスの姿はしたたかである反面いじらしくもあり、さらに貧しさがゆえに巻き込まれる事件の数々にはらはらのし通しという、おそるべき作品である。
 著者はインドの外交官。イギリスに滞在中、家族が先に帰国してひまになったので「小説でも書いてみるか」と思い立ったのが執筆動機で、最初の四章半をネットで検索した出版社に送ってみたら続きを書くよう言われ、帰国前に急いでおしまいまで書いのが世界的なベストセラーになっちゃったそうです。トーマスの幸運のコインは著者のポケットのなかにあったのかもしれません。

★★★★★(2006.11.23 白犬)

"Q and A" by Vikas Swarup 子安亜弥・訳 ランダムハウス講談社 1900円 4-270-00145-3

posted by Kuro : 14:30

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