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November 05, 2006

角田光代『ドラママチ』○●

 初出「オール讀物」2003年6月号〜2005年10月号。夫、伊藤たかみの芥川賞受賞で初の芥川・直木両賞受賞夫婦となった角田光代の短篇集。中野、高円寺、阿佐谷、荻窪、吉祥寺、三鷹などJR中央線沿線の街を舞台とする8つのドラマ。すべてのタイトルにつく「マチ」には「街」と「待ち」のニつの意味が込められているらしく、登場する女性は皆なにかを待っている。受け身というわけではない。「なにか」を理想の形で手に入れるためには行動もする。
 表題作「ドラママチ」は、6年越しの同居相手に結婚を切り出された女の心情を描く。学生時代はスマートで小ざっぱりしていた男が、「腹が出て、首がYシャツにくいこみ、額がM字に広がった。窓ガラスに押しつけている頭頂部は、頭皮が透けて見えるほど薄くなってしまった」ことにあらためて幻滅した主人公が、「魔法がとけたら王子じゃなくて蛙になってしまった」と毒づくのが可笑しい。愛しているはずなんだけども、慣れきって無遠慮な言動がいちいち気に障る。何かおかしい、まちがっていると、結婚を前に逡巡する主人公の姿に共感する女性読者も少なくなかろう。
 バランスよく、突出して印象に残る作品はないが、しいてあげるなら「やりたい」という奇抜な書き出して始まる「ショウカマチ」だろうか。夏の行楽のおともに、おすすめ。

★★★★☆(2006.7.10 白犬)


 2006.6.30初版。初出「オール讀物」の8篇をまとめた短篇集。「コドモマチ」「ヤルキマチ」「ワタシマチ」「ツウカマチ」「ゴールマチ」「ドラママチ」「ワカレマチ」「ショウカマチ」。

妊娠、恋愛、プロポーズ……女はいつも何かをも合っている
女が求めているのは
ドラマなのだ!
中央線沿線の「マチ」を舞台に、
小さな変化を「待つ」ヒロインたちの8つの物語(帯)

 そのまんまです。
 たしかに、何かを待つ女たちの物語であり、その物語の舞台となる街の話なのだけれど。
 しかしこれはなんといっても「喫茶店小説集」だ、と断言してしまおう。喫茶店なくしてはこの小説集は成り立たない。スタバやドトールといった個性のない喫茶店に席巻された街まち。禁煙だったり分煙だったりするから物語も成立しにくい(笑)。
 そういえば遥か昔、女の子とはじめて喫茶店に入ったときは……。悪友らと妙に熱く語り合ってお店のひとに注意されたのは……。OB訪問で緊張してコーヒーを飲んだのは……。あの別れ話をしたのは……。さまざまな喫茶店の記憶がよみがえる。小説の中身そっちのけで(いや、おもしろかったですよ)、過去を振り返ってしまった一冊だった。

★★★★(2006.8.30 黒犬)

文藝春秋 1286円 4-16-324970-2

posted by Kuro : 15:19

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ドラママチ 女が求めているのはドラマなのだ! 妊娠、恋愛、プロポーズ…。女はいつも何かを待っている。中央線沿線の「マチ」を舞台に、小さな変化を「待つ」... [Read more...]

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