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October 07, 2006

クリスチャン・ガイイ『さいごの恋』○

 ジャズ・ピアニストを描いた前作『ある夜、クラブで』に続くガイイの長篇小説。
 主人公は現代音楽の作曲家ポール・セドラ。1987年。チューリッヒの夏のフェスティバルでポールの弦楽四重奏曲が初演される。聴衆の反応は惨憺たるものだった。楽屋を訪ね、失意のカルテットを励ますポール。――しっかり、おちびさんたち。私は客席に戻らないけれども。病におかされた彼はじきに死をむかえようとしていた。翌日、ピアニストの妻リュシーと入れかわりに、ひとり海辺の別荘を訪れたポールは、美しいデボラ・ナルディスに出会う。
 ああ、やっぱり好きクリスチャン・ガイイ。
 描かれているのは、みずからの死という現実を受け入れたあとの男。疲れやすく力の入らない体で、彼は死に場所ときめた別荘に向かう。ポールが妻リシューを遠ざける理由についての説明はないが、リシューが別荘に残したメモなどから、ともに音楽を伴侶としてきた夫婦の深い理解をくみ取ることができる。デボラ・ナルディスとの出会いはポール自身もまったく予想しなかった終章だっただろう。この秋いちばんのおすすめ。

★★★★★(2006.9.22 白犬)

"Dernier Amour" by Christian Gailly 野崎歓・訳 集英社 1700円 4-08-773447-1

posted by Kuro : 14:24

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comments

おはようございます。TB、ありがとうございました。
クリスチャン・ガイイの新作ですね。知りませんでした。早速、書店で買ってこようと。
涼しくなって読書に良い季節です。
では。
kenyama

投稿者 kenyama : October 8, 2006 09:28 AM

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