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August 02, 2006

北康利『白洲次郎 占領を背負った男』○

 PHP主催の第14回山本七平賞受賞作。白洲次郎の評伝。写真口絵、年譜つきの堂々400ページ。白洲次郎のことを知りたければ本書だけで事足りるだろう。
 ケチをつけるとすれば著者が想像で補っているとおぼしき記述。根拠(資料)あってのことだとしてもちょっとつくりすぎ。その最たるものが本文中の会話である。地の文が堅めなだけに浮きまくっている。たとえばこんなとこ。

 債権者は文平にぶつけられない不満の捌け口をしばしばよし子に向けた。次郎は見ていられなくなり、深夜したたかに酔って帰宅した文平に激しく食って掛かった。
「親父! 債権者の応対をお袋に任せて飲みに行くとはどういう料簡だ? お袋がかわいそうだろう! こそこそ逃げ回るなんて男のすることじゃないぞ」
「なんやとーっ!」
 文平の目がみるみる三角になって釣りあがっていく。
「お前これまでイギリスでええ暮らししててこれたんは誰のおかげや思てんねん。このすねかじりが偉そうなことぬかすな!」
 言葉だけでなく手も飛んできて、横っ面をいやというほど殴られた。(ケンブリッジ大学クレアカレッジ p.38)

 へたなホームドラマみたいで脱力。会話以外でも次のような記述が。

 歌の文句ではないが、恋というのは突然に訪れる。目と目が合った瞬間、正子の心臓は早鐘のように打ち始めた。
(なんて背が高いの。なんて凛々しいの、なんて甘いマスクなの、なんて気品のある物腰なの……)
 胸のあたりから零れ落ちてくる甘い花弁のようなオーデコロンの匂いが鼻腔ををくすぐるともういけなかった。部屋の空気が急に薄くなったように感じ、胸のあたりが酸っぱくなってきた。頬がほてり耳朶まで真っ赤になって行くのが自分でもわかる。(同p.44)

 白洲正子が生きていたら鼻でせせら笑うか、場合によっては激怒であろう。

★★★★(2006.7.16 白犬)

講談社 1800円 4-06-212967-1

posted by Kuro : 23:52

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comments

TBありがとうございました。
私も、『プリンシプルのない日本』もあまり進んでいませんが、購入済みです。

投稿者 ちょこら : August 5, 2006 09:11 PM

私のページへのリンクもありますが 別の人がまとめたものです

投稿者 くれど : June 19, 2008 09:56 PM

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