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October 10, 2005

加藤廣『信長の棺』●

 2005.5.24初版、2005.9.28第9刷。小泉首相も読んだってんで評判になっておるようです。著者は1930年生まれでいい歳のじいさんですが、長年経済書を書いてきた人だそうです。小説家に転向するんだってさ。
 テーマはタイトル通り、信長の棺(というより信長の遺体ですけど)はどこに消えたのか、でありまして帯には《驚異の新人による、ほんっかく歴史ミステリー》とあります。探偵役は現代人や後世の人間ではなく、当時信長の側近として城を守る事務方であり記録係の太田信定(のちに『信長公記』を書く太田牛一)。忠義にあつい部下としては、なんとしても主君信長がどこに葬られているのかを調べ出したいわけです。とはいえ本能寺の変からあと激動の時代が続きますから、太田の調査は簡単には進みません。自分自身も幽閉され、ようやく真相に近づくのはかなり歳をとってからのことになります。そのあたりの紆余曲折を四百頁余りにわたって描いた長篇小説というわけ。

 題材としてはなかなか興味深かった。歴史の表舞台にはあまりあらわれない裏方をとりあげたものとしては、去年出た『火天の城』(山本兼一/文藝春秋)があります。あれも面白かった。あちらは城大工の話でしたが、今度は信長ゆかりの記録係。物書きとしてのプライドはあるけれど、時の権力者に逆らうわけにもいかないというジレンマがなかなかよく書けていると思いました。

 じゃあなんで星が二つ半なのよ、って話なんですが、ミステリーとしては全然ダメだっていうことと(まあ最初から期待してなかったけどさ)、それからもうひとつ、「言葉遣い」に引っかかったからってこと。
 会話のなかに出てくる言葉が、どうにも気になる。こんな言葉、その当時にあったの? もしかして明治以降の和製漢語じゃないの? といった言葉がぽろぽろと。たとえば「紛失」「招聘者」「招待者」「搭載」「攻撃」等々。
 わたしは専門家じゃないんで正確なところはわかりません(もしかして当時から存在していた言葉もあるのかもしれません。ただ、なんとなく現代ふうで読んでいて引っかかるということです。言葉の問題ではなく、文章全体からうける印象なのかなあ)。
 安土桃山時代そのままの会話など書けるわけはありませんが、しかしもうちょっと雰囲気を出してもよさそうなものです(たとえ読者に不親切であっても)。少しならいいんですよ。気にならない。でもばんばん出てくると、なんだかなあと思ってしまうわけです。漢語にルビを振るっていう方法でもいいと思うし。
 さらにいえば、記述者太田自身の視点から書かれていますから、地の文でのそういう語も気になっちゃうんですね。
 とまあ、どうにも作り物めいた感覚が最後までぬぐえず、評価が低くなってしまったわけです。作り物なんだから作り物っぽくて何が悪いという考え方もありでしょうけどね。

 ああそれから、p.339に南蛮の技術のひとつとして「鉄の大船」というのがあげられているんですが、そのころの船ってもう鉄製だったんでしょうか。p.228で書かれている「フスタ船」「ナウ船」にしてもガレー船、帆船で、当然木造だと思うのだけど……。

★★★(2005.10.10 黒犬)

日本経済新聞社 1900円 4-532-17067-2

posted by Kuro : 23:21

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