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August 06, 2005

いとうせいこう×奥泉光+渡辺直己『文芸漫談 笑うブンガク入門』●○

 2005.7.10初版。初出「早稲田文学」03年9月号〜05年3月号。漫談形式の文学入門書。ふたりでやるなら漫才じゃないのかという気もするが、対談でもあるしまあいいのでしょう。区別、よくわかんないし。
 で、もしかして対談をしているかのように見せかけて、実はふつうに書いているんじゃないかと疑っていたのだが(なんで疑うんだかよくわからんが)、どうやら実際に客の前で対話していたのだという(最終章「エピローグ 楽屋にて」を除く)。
 まあそれはさておき、本書は“クスクス文学がわかる”ということを目指したのだという(いとうせいこうによる「まえがき」より)。“グングン文学がわかる”のではなく“クスクス”。さらには座付作家・渡辺直己が丁寧な脚注をつけていたりもする。じゃあグイグイわかってしまったかというと、全然わからん。悪いけど脚注、べつになくても(笑)。
 こちらにわかろうという気がまったくないというのも一因ではあろうが(つーかそれがすべてか)、おかしくてブンガクのことなどどうでもよくなってしまうのである。あの芥川賞作家・奥泉光というのはこういう人だったのですか。『「吾輩は猫である」殺人事件』の奥泉は。フルートもふく光は。蝶ネクタイなんかしめちゃって。
 それだけでも充分衝撃的だったのだが、しかしこの本で評価すべきはいとうせいこうでしょう。このツッコミは天才的だ。こういう対談は、会話形式であるがゆえに文字で読んでもその面白さがいまいち伝わらないということが多いと思うんですが、これは素晴らしいです。まとめた人が偉いのかもしれないけど。
 じゃあちょっと内容を紹介。

奥泉  どうも最近保育園中心にものごとを考えるクセが(笑)。ともかくね、父母会に行ったんですよ。保母さんと、お父さんお母さんが集まって懇談するんです。で、ひとりのお母さんが「うちの子、すっげー言葉わりーんですよ」って。
いとう いいですね、そのエピソード(笑)。
奥泉  「女のくせにスゲーんですよ、言葉が。どうしたらいいんスかね」って。そう言われてもね……。
いとう 「失笑が漏れる」ってやつですよね。
奥泉  保母さんも「こんど注意しときたいと思います……」。
いとう 対応が弱いね。思わず腰が引けた。
奥泉  この場にいとうさんがいればな、って思いましたよ。ぼくの芸風がツッコミだったら「おいおい、あんただよ!」って言ったと思うけど。
いとう もしその場におれがいたら……「スンゲーよくわかります」って言うな(笑)。そのお母さんはおそらく言ってもわからないから、周囲のひとを笑わせて解消するしかない。(p.133-134)

 文学とは全然関係ないとこだけど。でもちゃんとこのあとブンガク方面に続いていくのである。続いていかなくても一向にかまわんのではあるが。

★★★☆(2005.8.1 黒犬)


 各地で行われた講演の記録をまとめた本。初出「早稲田文学」2003年9月号〜2005年3月号+語り下ろし。小説の書き方・読み方がスクスクわかる、芥川賞作家と希代の仕掛け人がおくる漫談スタイルの超ブンガク実践講座。“座付作家”渡部直己による、ためになる脚注付き。
 これはおもしろい! じつに笑い通しであった。評判になるだけのことはある。活字になってもこんなかんじ。

奥泉  ぼくは、タイトルより書きだしですね。書きだしが決まっているものはすごく書きやすい。たとえば『「吾輩は猫である」殺人事件』の一行目は「吾輩は猫である。名前はまだない」。漱石そのままですからね(笑)
いとう 処女作も「気がかりな夢から醒めて」ですもんね。
奥泉  次は「きょう、ママンが死んだ」だな(笑)
いとう 「春はあけぼの」とか?
奥泉  「他人の言葉からスタートする」、基本です。
いとう わかった! 書きだしの一行のところに詩を置くんだ! 詩は外部性があるものだもんね。
奥泉  「祇園精舎の鐘の声」……イケる!
いとう イケるってどういうことですか、イケるって(笑) (職業作家で行こう! p.040より)

 機会があったらぜひライブに行ってみたい。奥泉氏のフルート演奏もきいてみたい。

★★★★☆(2005.9.1 白犬)

集英社 1600円 4-08-774761-1

posted by Kuro : 16:41

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