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June 16, 2005

真保裕一『ダイスをころがせ!』(上・下)●

 2005.5.1初版。単行本は02年1月毎日新聞社刊。
 選挙小説(なんて言いかたありですか? 解説で茶木則雄はそう書いているが)。まあ政治小説とも青春小説とも違うようではあるが(どっちつかず)。選挙入門小説あたりでいいかと。
 34歳の商社マンだった駒井は会社を飛び出し無職の身。妻子は実家に身を寄せ、本人は職安に通う毎日を送っていた。ある日、高校時代の友人で恋敵でもあった天知に声をかけられる。衆院選に立候補するので選挙参謀として助けてくれというのだ。理想ばかりを語る天知に反発をおぼえる駒井だったが、いつしか彼の熱意にうたれ、鞄看板地盤全部ナシの選挙戦をたたかおうと決意した――。
 いかにもおもしろそうな話でしょ。いい題材だよな。ずいぶん調べたらしく、選挙(ふだんの政治活動も含めて)の仕組みなども丁寧に書かれている。
 が、しかし。
 この人の文章というか会話というか、もういちいち引っかかるんだよなあ。もうちょっとなんとかならんかなあ。

 天知と再会した駒井は中華レストランに入り、《窓際の席で生ビールと飲茶のセットを注文し》(上巻p.17)て政治論をたたかわせるわけです。

どうして生ビールと飲茶を前に、こんな昼日中から政治談義に熱を入れなくてはならないのか。(上巻p.28)

 飲茶セットはいいけど、《飲茶を前に》は変な気がするんですが……。

 駒井の娘は幼稚園受験をひかえている年齢なのだが(しかし無職なのによく幼稚園から大学までエスカレーター式の私立に入れようと思いますなあ)、この娘もすごい。

ママ、最近ちょっと怒りっぽいんだ……。(上巻p.296)
「早くお仕事を終えて、帰って来てね。(下巻p.232)

 何歳だよ。《終えて》って……。マセてりゃそれくらい言いますかそうですか。でも他のシーンじゃ普通の幼児みたいなんだけどなあ。

「まさしくパンドラの箱に手をかけるようなものだな」
「おとぎ話と同じく、箱の底に希望が残ってるのを祈るだけだよ」(上巻p.312)

 おとぎ話? ギリシャ神話じゃなかったっけ? ああすいません細かいっすね重箱の隅っすね。

重く見逃しにできない現実があった。(下巻p.75)

 うう、気持ち悪い構文だなあ。「見過ごすことのできない重い現実があった。」とかでどうでしょう。

「さて。はがきの印字にかからないと」(下巻p.262)

 おーい。「はがき、印刷しないと」でわかるじゃん。なんで「印字」。

 健一郎は(略)リストの封書を手渡した。(略)
 辰彦は封書からリストを取り出すと、(略)
 辰彦はリストを封書へ戻すと、デスクの抽出にしまい、鍵をかけた。(下巻p.317)

 もしもし、封書と封筒がごっちゃになってませんか?

 もちろん他にも引っかかるところは山ほどある。些細といえば些細なことだ。全体のストーリーが楽しければ、感動できればそれでいいという考え方もあるだろう(もっとも、それとて成功しているとは言いがたい。選挙戦における“障害”もスリルはないし、高校時代の友人たちとの“仲間意識”も鼻につく)。
 しかし、やはり小説は読ませてなんぼだと思うのだ。読み進む時に引っかかるようじゃダメだと思うのだ。この作家に限らず、文章をおろそかにする小説家が最近多いような気がしてならない。
 ああそれから、大々的な誤植発見。下巻p.381のハシラが章タイトルではなく「後記」になっている。どうした新潮社。

★★☆(2005.6.14 黒犬)

新潮社/新潮文庫 上590円・下552円 4-10-127024-44-10-127025-2

posted by Kuro : 23:28

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