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March 21, 2005

樋口有介『雨の匂い』●○

 2003.7.25初版。書き下ろし長篇。どういうジャンルに分類すればいいのかよくわからない。もともとはミステリーの人だけど、この作品はミステリーと呼んでしまうにはじゃっかんの抵抗がある。むしろ純文学よりなのかも?
 うまいし、読ませるのに、なぜかブレイクしないんだよなあ。もっと読まれてもいいと思うんだけど。文章は安定していて、安心して読めるし。この作品も、適度に枯れてきて結構いいんだけどなあ。
 主人公柊一は大学生。両親は離婚。祖父は寝たきり、父は癌。ひとりで二世代の病人の面倒を見ている、という、現実にそんなことがあったら気が狂うだろうというような設定がいい。傍目には「いい青年」に見える彼の中に、何が芽生え、何が育っていくのか。真剣に考えていくと、けっこう重い話ではある。
 しかし、それなのに、

必死だけど可笑(おか)しくて、
実直ゆえに我がままで、優しいくせに傷つける――
デビュー15周年を迎えた樋口有介の真骨頂、とにかく切ない物語。

 というこの帯コピーはあんまりではないのか。かわいそうだと思うぞ。それとも、切ないって書いときゃ売れるのかねえ。

★★★★(2003.8.17 黒犬)



 主人公の柊一は大学生。学校にはほとんど行っていない。ビデオ店でバイトをしながら、自宅で寝たきりの祖父の介護をし、末期癌で入院中の父、友員(ともかず)を見舞う日々。そんなある日、柊一は父と離婚した元母親、久子に会う。すでに再婚して子供もいる久子は、柊一に友員の死亡保険金を融通してほしいと頼み込む。
 帯に「あの日、雨が降っていなければ誰も殺されなかった」とあるように、本作はれっきとしたミステリ小説である。青春小説の体裁を借りたミステリとでもいおうか。
 祖母は死に、母は男に走り、子供はじぶん一人。ほとんど救いようのない男所帯を切り盛りする柊一は、実直さだけが取り柄のダサイ青年ではない。なんでも器用にこなすし酒も飲むし女にももてる。そんな誰もが認める好青年が、まるで流されるように死に関わって行く。彼はなぜ殺意を必要としたのか。
 家族をはじめ、バイト先の人々との交流など、柊一を取り巻く状況は多岐に渡るが、迷うことなく一気に読めた。さすが樋口有介、と太鼓判を押しておきます。おすすめ。

★★★★☆(2005.2.18 白犬)

中央公論新社 1800円 4-12-003420-8

posted by Kuro : 00:35

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