ニック・ホーンビィ(Nick Hornby)

【長篇】
いい人になる方法
アバウト・ア・ボーイ
ハイ・フィデリティ

【短篇集】

【エッセイ・NF】
ソングブック






ソングブック

Songbook  4-10-220215-3

新潮社/新潮文庫 552円


 2001年に発表した『いい人になる方法』(新潮文庫)で全英No.1を独走したホーンビィの音楽エッセイ集。ティーンエイジ・ファンクラブからパティ・スミス・グループまで、31曲のポップミュージックに託して語る、ぼくの小説、ぼくの人生。わかりにくいので補足しておくが、本書で語られているのは歌にまつわる「思い出」ではなく、主に自身の現在である。「序」にこうある。

 ……ぼくは思い出なんて書きたくなかった。ポイントはそんなことじゃない。これまで聞いてきたなかでいちばん好きなレコードを聞くと、コルシカでのハネムーンを思い出すとか、家で飼っていたチワワを思い出す、なんて言う人は、ほんとのところ、あまり音楽が好きではない人だろう。ぼくが書きたかったのは、いったいその歌のなかにある何がぼくをここまでとりこにしたのか、ということだ。(p.15)

 たとえば、ブルース・スプリングスティーンのサンダーロードについて、こういうふうに書いている。

 サンダーロードはどうしてだか、ぼくの気持ちを代弁してくれる。理由のひとつは――そしてそれはある意味恥ずかしい理由でもあるのだが、この時期のスプリングスティーンの歌が、どれも有名になりたいという思いや、表現を通じていささかなりとも大衆に認めてもらいたいという思いを歌ったものだからだろう。(p.24)

 としたうえで、自身がプロ作家になるまでのあがきを告白している。ここだけ見ても本書が取りすましたケチなデータ本ではないことがわかるだろう。もちろん、ご本業の小説の作風もたっぷりと盛り込まれていて、たとえその歌を知らなくても楽しむことができる。長いが、とくに気に入った部分を引いておく。

 人は必死になって典型的な決まり文句を避けようとする。
 壁の絵や本やCDをながめてみるといい。そこには、生まれてからこれまで、典型におちいることを巧妙に避けてきた全方位的かつカテゴリー化不能な人間がいる。それでもあなたが白人男性だったら――とくに四十歳をこえた白人男性だったら――悲しいことに、ひとつの分野に関してはまちがいなく馬脚をあらわしてしまうはずだ。あなたは、ダンスがまるっきり踊れない。実際、踊れないだけでなく、かなり酔っぱらっているか、それともぐでんぐでんに酔っぱらっていなければ踊ろうともしない。まわりにいるのが見知らぬ他人ばかりでなければ踊ろうとはしないし(まったく赤の他人で、なおかつあなたより年をとっていて、悲惨なくらいに動きがぎくしゃくしていれば、実に好都合だ)、もしくは、まわりをかこんでいる最低限四半世紀はつきあってきた人々がみんなかなり酔っぱらっていたりぐでんぐでんに酔っぱらっていたりしなければ踊ろうとはしない。「でもね、ぼくはそんなお決まりのイメージなんか壊してしまったよ」――今ここでそんなふうに言えたらいいのにと思う。(p.204)

 ちなみにホーンビィは1957年生まれ。とくに四十歳を超えた日本人男性におすすめしておこう。

★★★★☆(2004.10.5 白犬)


いい人になる方法

How To Be Good  4-10-220214-5

森田義信・訳 新潮社/新潮文庫 743円


 2003.6.1初版。『ハイ・フィデリティ』『アバウト・ア・ボーイ』のホーンビィの新作。2002年度英国No.1ベストセラー、と帯にはある。
 夫婦生活スラプスティック、とでも呼んでおこうか。医師である妻ケイティは浮気をしている。コラムニストの夫デイヴィッドは毒舌家のひねくれ者。子供が二人。ケイティが離婚話を持ち出したことがきっかけで事態は妙な方向へ進んでいく。
 ドタバタコメディではありながら、人間の善、夫婦間の約束事、生活に侵入する夾雑物とそれへの対処法などなど、あちこちに考えさせられることもあり、全体的にすいすい読めた。
 どうも登場人物がみなうさんくさくて、あまり感情移入はできなかったけれど。“ただしいこと”を疑いもなく行ってしまう“ただしいひと”というのは、しんどいでしょうな、身近にいると。

★★★★(2003.6.20 黒犬)


 2002年度英国NO.1ベストセラー。
 医師ケイティは出張先からの電話で、ふと夫に離婚を持ちかける。夫デイヴィッドは怒れる毒舌コラムニスト。ところが離婚話を境に加速度的に「いい人」と化してゆく。自宅に癒し手(ヒーラー)を住まわせ、子供のおもちゃやパソコンを施設に寄付し、あげくの果てにはご近所に呼びかけてホームレスに部屋を提供する。とめどもない「善行」に翻弄される一家を通して、現代の「善」をシニカルに描く。
 男の作家が女の一人称で書いた作品。「男のおばさん」になりがちなところを、医師で稼ぎのある妻、いちおうコラムニストだが、自宅で主夫をしながらときどき一文にもならない小説を書いている夫という設定で見事に乗り切っている。浮気をし、連れ合いの善行パワー炸裂で家に居場所がなくなるのは妻ケイティのほうである。ケイティが「いい人」にすっかり感化された幼い娘を嫌いになるところや、浮気相手が自宅に乗り込んでくるシーンには笑った。一気読み必至。おすすめ。

★★★★(2003.8.5 白犬)


アバウト・ア・ボーイ

About A Boy  4-10-220213-7 

森田義信・訳 新潮社/新潮文庫 705円


 2002.8.1初版。原著(c)は1998年。『ハイ・フィデリティ』のホーンビィ久しぶりの小説である。
 映画化され、日本では9月公開。そういや広告を見たような気がする。主演はヒュー・グラント。
 36歳の独身貴族、ウィル。後腐れのないシングル・マザーをゲットするため、子供がいると偽ってシングル・ペアレンツの会に入会する。
 12歳のマーカス。離婚した母とともにロンドンへ。転校先の学校ではいじめに遭うし、母親はヒッピーくずれで“わかっちゃいない”。
 そういう二人が、ある事件がきっかけで知りあい、反発しつつも理解しあっていく、という物語。
『ハイ・フィデリティ』よりもマニアックさは薄れているが(笑)、そのぶんわかりやすく面白い。映画にもしやすいわな。
 12歳の少年の成長物語であると同時に、36歳のおっさん(青年、といいたいところだが)の今さらながらの成長物語でもある。ありそうでいて、新しい気がする。けっこうよかったです。
▽映画の公式サイトはこちら。
 http://www.about-a-boy.com/

★★★★(2002.9.8 黒犬)


 ウィル・フリーマン、36歳。独身。無職だが亡父の印税収入で悠々自適。シングルマザーとの後腐れのない関係に味をしめたウィルは、シングルファザーになりすましてシングルペアレンツの会にもぐりこむ。その活動の一環として行われたピクニックで、ウィルは妙に大人びた縮れっ毛の少年に出会う。マーカス・ブルーワー、12歳。元ヒッピーで音楽セラピストのママは、調子がわるくて一緒に来られなかったという。仲間とともにマーカスを住まいに送り届けたウィルは、自殺をはかって倒れている母親を見つける。
 三十代のダメ男と少年の心温まる物語。マーカスは大好きなウィルとママをくっつけようと画策するが、二人の間には深くて長い溝がある。ウィルとの付き合いを禁じられたマーカスは、理屈っぽいママに言う。「僕には父親が必要なんだ」。ママは黙った。そして泣き出した。効果てきめん。だが、そう簡単に物事はすすまない。情けなくも愛すべき人々の悲喜劇。次作『いい人になる方法』(新潮文庫)と合わせてお買い得。
▽映画はこんなかんじ
 http://www.uipjapan.com/aboutaboy/

★★★★(2005.3.7 白犬)


ハイ・フィデリティ

High Fidelity  4-10-220211-0

森田義信・訳 新潮社/新潮文庫 705円


 1999.7.1初版。イギリス生まれの、だめだめ音楽青年のだめだめ恋愛譚。オリジナルは95年の刊行。
 いやー、ダメ(笑)。レコード屋さんを経営する主人公ロブ35歳、同棲相手のローラに逃げられてうじうじと悩みます。子供のころからの失恋経験を思い出してリストアップしたり、ローラの新生活をストーカーしたり、アメリカ人の女性歌手のライブにいって仲良くなっちゃったり、男の馬鹿さ全開です。
 まあ男の馬鹿度研究という点では、なかなか正しい(ようするに男って情けない生物だから)んですが、それが自分と同年代だったりするってのがちょっと頭痛し。二十代の若者ならまだしも(わはは)。古いロックやブルースの好きな人には、いろいろ楽しめる小ネタ満載ではある。

★★★(1999.8.20 黒犬)

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last updated : 2005/03/20
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