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June 04, 2005

高橋源一郎『官能小説家』○

 文壇をゆるがすスキャンダル、森鴎外と樋口一葉の不倫を軸に、漱石、啄木、桃水、そしてタカハシゲンイチロウらが時空を超えて入り乱れ、文学を語り愛を交わす。著者初の官能小説。
 朝日新聞夕刊連載時はすごい不評だったらしいが、とてもおもしろく読んでしまったよ。切れ切れに読むような話ではないのかもしれない。それ以前に、朝日新聞の読者にはご清潔な人が多いのだろう。
 新聞小説らしくねらったのかもしれないけど、ベタなところで思わず笑ってしまう。たとえばこういうところ。

 その時だ。店のドアが開いて、森鴎外が入ってきた。最初に気づいたのは店のママだった。ママの手から、ピーナッツとスルメを載せた皿が落ちた。ママは額に手を当てると壁に寄りかかった。気分が悪くなったみたいだった。
 鴎外はおれの隣に座った。突然使い物にならなくなったママの代わりに、若い女がいった。
「なんになさいますか」
「水割り」鴎外はいった。
「あの、ボトルは……」
 店の中に異様なほどの緊張が走った。
「岩波書店のボトルでいいの!」
 ママがハンカチで顔を隠したまま呻いた。(p.111)

 文庫で900円はビミョーだが、文学好きな人におすすめ。

★★★★☆(2005.5.26 白犬)

朝日新聞社/朝日文庫 900円 4-02-264348-X

posted by Kuro : 01:12

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comments

TBありがとうございます。
確かに新聞に連載されていたという事実には驚かされます。
一気に読んでしまっただけに、少しずつ読むのは逆に苦痛かもしれませんね。

投稿者 こまごめとなり : June 4, 2005 10:55 PM

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