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May 27, 2005

穂村弘『現実入門』●○

 副題は《ほんとにみんなこんなことを?》。2005.3.25初版。初出「小説宝石」2003年4月号〜2005年2月号。2年近く連載されていたわりにはあっけなく読み終えてしまったのは、なんか全体にすかすかしていて字が大きいせいか。
 著者は62年生まれの歌人・翻訳家・エッセイスト。であると同時に一般企業(SEを募集していたりするということはコンピュータソフト会社?)の総務部につとめる会社員でもある(いまはもう会社員はやめたのかも)。
 で、この本の(というか雑誌連載の?)コンセプトは、42歳にもなって一般人に比べて経験したことの絶対量が少ない著者が、美人編集者サクマさんに助けられつつ、「献血」だの「合コン」だの「モデルルーム見学」だの「競馬」だのを体験してレポートするという企画モノ。
 ただ、だんだんとそれがあやしげになってきて、ついには……。
 全体になにやら間抜けでヌルい感じは嫌いではない。文章からうける印象は、気が弱くて口下手で、女の子ともちゃんとつきあえない、ダサい独身男(もしかして変な趣味アリ?)みたいだが、でも学生時代にはちゃんと恋人もいたようだし、そんなにあぶない引きこもりモドキというわけではない。短歌の世界でも有名なようだし(全然知らないけど)、けっこうマトモな人なのだろう。
 三谷幸喜(のエッセイ)的な笑いの方向性を感じる。ただ、だいぶ抑制されていて、プッとふきだすというより、ところどころクスリとさせられる程度。おもしろいけど。
 ただ、この手の体験エッセイというか突撃エッセイみたいなものは、あまりウソが見えすぎてしまうと「なんだ、じゃあ××の章も嘘だったんじゃないの」と思えてきてしまうので微妙。嘘まみれのエッセイでも佐藤正午なんかは楽しめるんだけどなあ。
 たとえば、終盤であとがきでは、はたしてこれが読者をミス・リードするためのウソなのか、著者の照れなのか、エッセイ企画としての仕掛けなのか、判断がむずかしいところ。
 関越自動車道に川巻平というインターはないと思うし、中央線に花荻窪という駅はない。「ハッピー園」は八芳園であるにしても、白金台駅にはキヨスクは、ない。
 その程度のウソはどうってことはないが、じゃあこの本がすべてフィクションなのだとしたら……。そりゃあちょっとツマランよな(ちゃんとC0095だから、基本的にはエッセイなんでしょう)。
 どうでもいいといえばいいんだけどね。

★★★☆(2005.5.27 黒犬)


「小説宝石」2003年4月号〜2005年2月号掲載の「ふるふる初体験」改題。
 歌人で翻訳家でエッセイストの著者が42歳にして初めて挑む「現実」。といっても、いわゆるふつうの人がふつうに経験している事柄である。たとえば「献血」「モデルルーム見学」「占い」「合コン」「はとバスツアー」「健康ランド」「競馬」「枡席で相撲観戦」など。「一日お父さん」「ウェディングドレスを見に行く」「部屋を借りる」なんてものある。こうして並べてみるだけで、著者が両親と同居しているちょっと浮世離れした独身男だということが知れる。「ほんとにみんなこんなことを?」という手書きのコピーが可笑しい。
 だがこの本、ただのレポートやエッセイではない。よくある初体験ものとはかなりおもむきが異なる。たとえば「モデルルーム見学」で佐野元春のバラード〈情けない週末〉を引くあたり。
 そして著者は本書での体験を経て「生活といううすのろ」を乗り越えたようだが、その過程は読んでのお楽しみ。

★★★★(2005.5.29 白犬)

光文社 1400円 4-334-97477-5

posted by Kuro : 23:36

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comments

お久しぶりですね。トラバありがとうございました。
なかなか面白い本でしたね。
買うまでではなかったかなと思いましたが・・・
息抜きには丁度良かったですよ。

投稿者 アスラン : May 29, 2005 06:23 PM

アスランさま。

コメントありがとうございます。なんかいつも文字化けしちゃってすみません。

穂村氏は全然知らない分野の人だったのでおもしろかったです。検索してみると、熱狂的なファンの人もたくさんいるようで、世の中にはまだまだいろんな書き手がいるものだなあと感心してしまいました。

投稿者 黒犬 : May 29, 2005 11:11 PM

トラックバックありがとうございました。
この本、とっても面白く読めたのですが、
何だか私は著者の“妄想”にばかり気をとられてしまったようです。
中央線のくだりは気づいたのですが、
白金台駅にキヨスクはないのですかぁ…
あぁ、全てフィクションだったら泣くかもしれません。
私もTBさせてくださいまし。

投稿者 ましろ : July 30, 2005 04:22 PM

ましろさま。

コメントありがとうございます。
なんとも不思議な本ですよね。エッセイだってフィクションだ、という人もいるくらいなので、事実をそのままに書いてあるとは限らないわけですが(というか、実際にあったことを文章にした時点で、ある程度のアレンジはなされているのが当然ですね)、そこらへんを読者の判断にまかせていて、読者としては勝手に「これはフィクション」「これは事実」と判別して楽しめばよいのでしょう(むろん判別せずにすべてをフィクションと考えてもすべてをノンフィクションと考えてもいいわけですが)。
奇妙な書き手です。

投稿者 黒犬 : July 30, 2005 04:40 PM

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