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February 24, 2005

藤沢周『焦痕』●○

 2005.2.10初版。初出「すばる」01年1月号から04年9月号まで断続的に掲載。
「焦痕」「腹が痛い」「素描」「錯誤」「消失」「擬態」「零落」「惑溺」「偏差」「ぷちぷち」「無辺」という具合に計11篇。どうせなら「腹が痛い」を「腹痛」、「ぷちぷち」を「緩衝」とか「気泡」とかにして、全部漢字二文字タイトルで統一してくれれば気持ちよかったのにとかどうでもいいことを思った。
 だいたいにおいて、短篇Aでも脇役が短篇Bでの主役という仕掛け連作が好きなので(なぜだか自分でも理由はよくわからない。得をしたような気になるからか?)点が甘い。とくに「素描」だな。焼き鳥を食べにいきたくなる。続く「錯誤」ではグレンモーレンジ。味覚嗅覚に訴えてくる。
 装幀(鈴木一誌)もなかなかよろしい――焦げ具合が。

★★★☆(2005.2.12 黒犬)


 主人公の大林は酔って乗り込んだ深夜バスで偶然にも幼なじみのミノルと再会する。ワンカップを傾けながら思い出話の途中、大林はミノルに長年の疑問をぶつける。
 「ミノルは、どうやって助かったんだ、あの時」――幼い日、仲間とともにミノルを神社の内陣に閉じ込めた。すぐに出してやるつもりだったが、遊んでいるうちに忘れて帰宅してしまう。思い出したのは、その神社が火事になってから。だが数日後、ミノルは何事もなかったような顔で現れたのだった。恐る恐る話を切り出した大林にミノルは意外なことを言う。「あの時、神社に閉じ込められたのは大林さんだったですよ」――表題作『焦痕』ほか全11篇からなる連作小説。

『焦痕』を引き継ぐ『腹が痛い』の主人公は、大林がミノルと再会した深夜バスに乗り合わせていた露木。続く『素描』の主人公は、その露木が同僚と行った焼き鳥屋の従業員というように、前の物語に登場する、その他大勢の中のひとりがリレーして行くという構成。よく作り込まれたロールプレーイングゲームさながらである。全編甲乙つけがたいが、インチキ作家の日常を描く『擬態』、神経症気味の建築家の心象をスケッチした『偏差』の2篇がとくに印象に残った。通勤本におすすめ。

★★★★(2005.2.15 白犬)

集英社 1600円 4-08-774745-X

posted by Kuro : 00:11

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