山本文緒(やまもと・ふみお)


【長篇】
落花流水
恋愛中毒

【短篇集】
ファースト・プライオリティ
プラナリア
シュガーレス・ラヴ
紙婚式

【エッセイ・NF】



ファースト・プライオリティ  4-344-00229-6
幻冬舎 1600円


 2002.9.25初版。初出「星星峡」連載99.7〜02.6+書き下ろし。『プラナリア』で第124回直木賞を受賞した著者の受賞後第1作。幻冬舎創立8周年記念特別作品。
 あなたのファースト・プライオリティは何ですか?――31歳の女性の31通りの最優先事項。というわけで掌編31本が収録されています。1話9ページくらい。
「偏屈」「車」「夫婦」「処女」「嗜好品」「社畜」「うさぎ男」「ゲーム」「息子」「薬」「旅」「バンド」「庭」「冒険」「初恋」「燗」「ジンクス」「禁欲」「空」「ボランティア」「チャンネル権」「手紙」「安心」「更年期」「カラオケ」「お城」「当事者」「ホスト」「銭湯」「三十一歳」「小説」。はあはあ息切れがする。たしかに31編あります。タイトルで好きなのは「社畜」「禁欲」かな。内容は、ほとんど忘れました。わるく言っているのではない。つまりそういうふうにいい本だということだ。家事の合間の拾い読みに。書き下ろしの最終話「小説」は「山本文緒さんご自身のことかも」と女性誌に出ていたので、そうかも。

★★★(2002.10.20 白犬)


プラナリア  4-16-319630-7
文藝春秋 1333円


 2000.10.30初版。「オール讀物」ほかに掲載の五編。恋愛小説集かと思いきや、〈無職〉小説集、だそうだ。直木賞狙い、なんだろうな。文春だし。
「プラナリア」は、乳ガンで片方の乳房をうしなった二十代の女で無職。「ネイキッド」は離婚した女で無職。「どこかでないここ」は主婦のパートタイマーだから完全な無職とはいえないか。「囚われ人のジレンマ」は大学院生の男。「あいあるあした」は素性不明の女。最初の三編は無職の当本人の視点から、残りの二編は無職当人の恋人側から描かれている。
 するっと読めるんだが、けっこうよろしいですね。いずれも、ほろ苦い、あるいはめちゃ苦い結末で終わるにもかかわらず、読後感はすっきりする。“病める現代社会”などという手垢まみれの言い回しが頭に浮かんできたり。
「どこかでないここ」("Somewhere but here"ですかね)「あいあるあした」がマル。

★★★★(2000.11.1 黒犬)


 初出「小説現代」「オール讀物」。現代の「無職」をめぐる五つの物語。乳がんの手術以来「ぷー」をしている女の子、離婚以来「ひきこもり」している元キャリア・ウーマン、リストラの夫と思春期の子ども及び老母を抱えるパート主婦、脱サラして居酒屋のおやじになった男の前に現れる宿無しの手相観。
「無力感にとらわれた人」vs.「社会的に正しい人々」といったところか。「ねばならない」ということは何もない。宿無しの手相観「あいあるあした」いい。

★★★(2000.11.6 白犬)


シュガーレス・ラヴ Sugarless Love  4-08-747204-3
集英社/集英社文庫 457円


 2000.6.25初版。親本は97年5月刊。
 骨粗鬆症、アトピー性皮膚炎、便秘、突発性難聴、睡眠障害、生理痛、アルコール依存症、肥満、自律神経失調症、味覚異常……以上症例が10。現代病というか、現代女性には縁の深い、それぞれの病気・症状をモチーフに、短編がつづられています。
 うまいところに目をつけたなあ。
 料理の仕方はそんなに目新しいとは思わないけど、材料がよかった。十編のうち二編は男の視点から書かれているけど、やっぱ女性視点のほうが生き生きしている。女子高生の「アルコール依存症」の話はカンドー的ですらあった。
 小粒ながらなかなかの収穫。
 しかしほんの三年間で、ほかにもネタになりそうな病気が増えたような気がしますね。

★★★☆(2000.6.28 黒犬)


落花流水  4-08-774433-7
集英社/集英社長編エンタテインメント 1400円


 1999.10.30初版。山本文緒の新作である。「小説すばる」に掲載された7本の短篇からなる連作集だが、いちおう長篇小説という位置づけらしい。
 舞台となる年代が、1967年、77年、87年、97年と十年ごとというのが面白い。ちょっと『白夜行』っぽいけど。しかし物語は現代では終わらず、2007年、2017年、2027年と、近未来まで続いていくのである。
 主人公は手毬という女、ってことになるようだ。しかしその母親である律子、手毬の娘である姫乃とグミも重要な役割をもたされているので、女三代記と考えたほうがいいかもしれない。それぞれの章での語り手は、手毬の幼なじみの混血少年マーティルであったり、彼女の腹違いの弟だったり、あるいは娘だったり手毬自身だったり。まあ70年にわたる物語であるからひとりじゃ語りきれないんだろう。
 話はテンポよく進み、あっという間に読み終わる。しかしまあ、それぞれの章が短篇なので、親子(主として母娘)関係の葛藤に食い足りない部分はあるかな。近未来の老人問題など、着眼点はなかなかいいかも。

★★★(1999.10.20 黒犬)


紙婚式  4-19-860920-9
徳間書店 1600円


 1998.10.31初版。
 結婚周辺にまつわる短篇集。恋愛小説集っていうよりもホラーだな。8本収録されているのですが、半分ぐらいけっこうコワい系列。「土下座」「子宝」「貞淑」「ますお」あたり、かなりコワいです。「秋茄子」もそうかな。篠田節子の意地悪さとはまたひと味違っており、いやはや、コワい作家です。

★★★(1999.9.27 黒犬)


恋愛中毒  4-04-873140-8
角川書店 1800円


 前回の吉川英治文学新人賞をとった本だす。
 編集プロダクションにつとめる若者が、別れた恋人におっかけられて大弱り。どうにかこうにか会社の謎めいたおばさん事務員に助けられるんだけど、飲み会の席でそのおばさん――水無月さん――としゃべっていたら、彼女の大告白が始まってしまう、のである。
 うひゃあ、まいった。なにがまいったって、てっきり主人公だと思っていた若者の話じゃなくて、社長となにかありそうで怪しい水無月さんの話になっちゃうってのが驚いた。そう来たか。
 離婚歴のある水無月さんは、弁当屋でアルバイトしてるときに近所に住む作家に見初められて(笑)、愛人兼運転手になってしまう。で、そういう話かと思ったらそれだけではなく、離婚のいきさつとか生い立ちの話とかまで出てきてしまってさあ大変。
 あんまり詳しく紹介しちゃいかんのだろうな、こういうのは。読む人によっては恋愛小説だろうし、あるいはこれはサイコホラーだ、と思う人もいるかもしれないっすね。
 ま、どっちにしても、ぐいぐい引っ張って続きを読ませるパワーはある。俺的にはやっぱり、コワイ話でした。無名時代からチェックしていた作家なのでメジャーになってくれてうれしい。

★★★(1999.5.26 黒犬)

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last updated : 2003/3/2
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