本多孝好(ほんだ・たかよし)


【長篇】
真夜中の五分前 side-B
真夜中の五分前 side-A
ALONE TOGETHER アローントゥギャザー

【短篇集】
FINE DAYS ファイン デイズ
MOMENT モーメント
MISSING ミッシング

【エッセイ・NF】



真夜中の五分前 side-B five minutes to tomorrow side-B  4-10-471602-2
新潮社 1200円

 2004.10.30初版。書き下ろし。
 というわけで、『side-A』の続篇。あれから二年がたち、「僕」は尾崎さんに呼び出される。A面B面だなんて、あたかも別作品のようですが、ちゃんと「side-A」から読まないとダメです。はっきり上下巻としたほうが誤解は少ないのでは。
 で、お話のほうはというと。
 いきなり「え、そんな」という状況です。なんてかわいそうなやつなんだ、「僕」ってやつは。人生にこんなことが二度までも、ってつらすぎでしょう。
 救いがないといえば救いがない、だけど、「僕」という人間が崩壊して、また立ち上がるというプロセスはとても読みごたえがあり、そういう意味での「救い」はある。なんだかよくわからないな。
 なにしろ必ずA面から読んで、必ずB面まで読み終えて、じーんとしてみてください。ほんとうは、派手に話題になってベストセラーになるような本よりも、こういう作品こそただしい恋愛小説なんだ、と個人的には思います。
 それから、この本、装幀がいいな。写真が。
 撮影したのは
本城直季という人なんだけど、これはなんというか、ミニチュアにしか見えないのだけれど、でも実はそうではないらしい。ぜひ書店で手に取って“フシギ”な感覚を味わってください。ここでも作品を見ることができます。

▽新潮社サイトの、この本の特集ページ
 http://www.shinchosha.co.jp/wadainohon/471601-4/index.html

★★★★☆(2004.11.6 黒犬)


【AとB、2冊分まとめての感想】
 広告代理店に勤める「僕」は、学生時代に事故で失った恋人の「五分遅れの目覚まし時計」をいまでも使っている。そんな僕の周囲の評価は「中身のない女たらし」。ある日僕は一卵性双生児の片割れ、かすみと出会う。僕とかすみは遅れたままの五分間を埋めるように近づいて行く。砂漠で毛布を売らないか――IT企業の社長にスカウトされ、会社を移った僕の仕事は、経営難の飲食店を生まれ変わらせることだった。
 『FINE DAYS』から1年7カ月。本多孝好の書き下ろし長篇、2冊同時発売。
 ぱらぱら読みしていただくとわかると思うが、多くを会話に委ねた作品である。
 来るものは拒まず、去るものは追わず。無欲。体温の低い禅宗の坊さんみたいな「僕」には、ときにいらいらさせられるが、読み進むにつれさほど嫌味でもなくなる。「僕」が勤め人で、日々仕事に追われたり、社内政治に振り回されたりといったような、ありきたりな俗っぽさに救われているのかもしれない。自分に厳しく、部下にも同僚にも会社にも厳しい、孤高の女上司いい。「僕」と通じ合うことができるのは、やはりどこかはぐれたような人々であるが、それぞれが魅力的に描かれていて強く印象に残る。
 喪失、そして出会いと別れ。「僕」に行くべき場所を教えてくれたのは誰だったか。
 こんな作品をやたら感動好きの若い人にだけ読ませておく手はない。

★★★★☆(2004.10.27 白犬)


真夜中の五分前 side-A five minutes to tomorrow side-A  4-10-471601-4
新潮社 1200円

 2004.10.30初版。書き下ろし。
 おお、ひさしぶりに本多孝好じゃないかしかも書き下ろしじゃないかというわけですかさずゲット。帰宅して帯をみると、

『MISSING』で圧倒的支持を受けた著者の
書き下ろし最新作、二冊同時発売!

 とある。え、二冊? もしかして“side-B”ってのもあるの? そんなわけで、取りあえず読み始めて、翌日あわてて『side-B』のほうも買ってきたのでありました。
 主人公「僕」は広告代理店につとめる二十代の会社員。五分遅らせた(進ませた、ではなく)目覚まし時計を愛用している。世間と「僕」のあいだも、ちょうど五分ほどずれているようで、周囲からは変わり者と見られがちだ。しかも、いろんな女と浮き名は流すものの、学生時代に恋人を事故で失うという経験から、恋愛不能にも陥っている。そんな「僕」がある日、プールで出会った女性は、双子の片われだった……。
 うーん、こう書くといかにもというかありがちというか、ダメ風味な感じがしてしまうけれど、実際はそんなことはなくて、とても面白い。文章も安定しているし、上司、同僚、友人、双子の片われ、と登場人物たちもなかなかいい。
 上司のライバル意識に巻き込まれる若きサラリーマン小説としても興味深いし。
 ひとことで言ってしまえば、長期にわたる“落ち込み”から徐々に“再生”していく物語、ということになるんでしょうが、その細部がよろしい。恋愛小説ブームの昨今、時流に乗れば売れるのかもしれませんが、しょーもない連中に読ませたくはないなあとも思わせる作品。
 で、この続きって、どうなるの。というところで「side-B」へ。

★★★★(2004.11.4 黒犬)


FINE DAYS ファイン デイズ  4-396-63222-3
祥伝社 1600円

 2003.3.30初版。『MISSING』『MOMENT』の本多孝好による最新短篇集。初出「小説現代」1本、「小説NON」2本、書き下ろし1本、の計4篇収録。執筆されたのは2000年から02年というところでしょうか。
 この人は着実だねえ。『MOMENT』とはちがって、それぞれまったく独立した短篇なんだけれども、それでもちゃんと、品よくまとまっています。
 ちょっとホラーっぽく、あるいはミステリアスで、しかも救いのある話を、こういうバリエーションで書けるのはけっこうすごいかも。目のはなせない作家になりました。

★★★★(2003.5.4 黒犬)


MISSING』の作者が贈る4つのラヴ・ストーリー。表題作「FINE DAYS」は、恨まれるとたたられるという噂の「彼女」をめぐるミステリタッチのお話。死期の近い父親に請われ、昔の恋人を探しに行く「イエスタデイズ」。こちらはSFタッチ。「眠りのための暖かな場所」もたたり系ミステリ。書き下ろしの「シェード」はファンタジー系か。
 『ALONE TOGETHER』に引き続き期待はずれであった。これはわたしが特殊能力嫌いだからだ。「ラヴ」部分はじつにセンスよく描かれている。2時間ドラマ原作向き。

★★☆(2003.3.28 白犬)


MOMENT モーメント  4-08-774604-6
集英社 1600円

 2002.8.30初版。初出は「小説すばる」2002年1月号〜4月号。ミステリアスな連作短篇集。
 主人公は有名大学の4年生。就職の当てもなく、病院で掃除夫のアルバイトをしている。その病院にはひとつの噂があった。死を間近にした人の前に、願い事をひとつだけかなえてくれる“仕事人”があらわれる。その仕事人は、掃除夫の格好をしている――。
 四人の入院患者、四つの願い事が、「FACE」「WISH」「FIREFLY」「MOMENT」の章題のもと、主人公神田の口から語られる。
 いいです。ミステリーというよりは青春小説という感じで。いずれのエピソードもちょっと泣かせる、しみじみとした味わいがある。さしてものすごい《謎》があるわけではないのだけれど(たとえば「FIREFLY」の電話の相手などはすぐわかってしまう)、そのあたりは重要ではない。
 しかし……年寄りはまだしも(おいおい)、若い人が死ぬ話は暗くなりますねえ。
 著者は71年生まれ、まだ30歳そこそこ。小説推理新人賞を受賞してデビュー、『MISSING』『ALONE TOGETHER』ときて単行本はこれでまだ3冊目です。最初のは読んだな。なんにせよ、今後が楽しみな作家です。

★★★★(2002.9.24 黒犬)


 あの病院には最後にひとつだけ願い事をかなえてくれる人物がいる。患者たちの間で語り継がれる「黒衣の仕事人伝説」。ふとしたことからその伝説を引き継いだアルバイト清掃員の「僕」が見たものは――。
 初出「小説すばる」。短編集『MISSING』で高い評価を得た新鋭の連作短編集。ルチオ・フォンタナの作品「空間概念、期待」を使った青い装幀すてき。
 ミステリで仕事人とくれば、恨みはらしますの「必殺仕事人」を思い浮かべる人もあるだろうが、成り行き仕事人の「僕」がかなえる願い事は主に「人探し」。「電車で行くので二千円でいいです」といったようなやりとりがユーモラスで笑える。重篤な心臓病をかかえる14歳の女の子の「修学旅行先で出会った男性に、一緒に撮った写真を届けて欲しい」という願いを引き受ける「WISH」いい。
 4編を通じての登場人物がそれぞれに印象的で、物語の連続性を高めている。例によってタイトルが横文字なのが気になるが(そういう方針なのか)、こういう垢抜けた書き手が出てきたことは嬉しい。次作期待。

★★★★☆(2002.9.9 白犬)


ALONE TOGETHER アローントゥギャザー  4-575-50844-6
双葉社/双葉文庫 552円

 デビュー作『MISSING』に続く長編。
 ある女性を守って欲しいのです。私が殺した女性の娘さんです――医大を辞めた「僕」は、脳神経学の教授に突然、奇妙な頼み事をされる。立花サクラ、14歳。女子中学生。「僕」はバイト先の問題児を集めた塾で知り合ったミカに渡りをつけてくれるよう頼む。待ち合わせ場所に現れた女子中学生は友だちではなく、サクラ本人だった。「僕」はサクラの波長にシンクロを始める。
 これはこれは。『MOMENT』がおもしろかっただけに期待はずれ。遡って読まなきゃよかった。主人公が関わるいくつかのステージを混乱なくまとめる力量はさすがだが、「僕」の特殊能力には参る。好きなのかそういうの。わたしが特殊能力嫌いだということなんだろうが。次作期待。

★★☆(2002.11.5 白犬)


MISSING ミッシング  4-575-23375-7
双葉社 1700円

 1999.6.25初版。小説推理新人賞出身の若手作家の短編集。71年生まれだそうだから若い。
 樋口有介あたりの香りがたちのぼっています。まだ未熟だけど。でも「瑠璃」なんかはけっこういい味出してます。今後に期待。(双葉文庫版あり

★★★(1999.9.26 黒犬)


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last updated : 2004/12/31
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