佐藤正午(さとう・しょうご)
【長篇】
ビコーズ
童貞物語
放蕩記
取り扱い注意
ジャンプ
【短篇集】
スペインの雨
女について
きみは誤解している
バニシングポイント
1988.5.20初版。単行本は1986年4月光文社刊。
『放蕩記』からしばらくののち、同じ作家が主人公の長篇。現在の彼の日常(いちおう創作について悩んでいたりする)と、十年前のある事件が錯綜する。祖母に支配されていた幼少時代、そこからはじき出された叔母、そしてときどき“視力をうしなう”左眼。高校時代の友人、恋人、今の恋人。佐藤正午らしい設定がうれしく、たのしく、そして切ない。
2001.9.20初版。93年5月集英社刊の親本に1本加えて、計9篇からなる短篇集。
いかにも佐藤正午らしい諧謔味にあふれております。ファンならばぜひ。そうでないひとでも、まあとっかかりにはよいかも。表題作は、いい。しかしテレクラって今でも成立してるんだろうか。この携帯全盛時代に。
2001.4.20初版。1991年講談社刊『恋売ります』改題。短篇8本収録。
個人的佐藤正午ブームなのであった。これも再読ですが。短篇集もいいなあ。いいというか、佐藤正午のなかではごく普通レベルなんだけど。パターンも(佐藤作品のなかには)よくあるやつばかりだし。でも、なんとなく、いい。
よくないのが解説。どうしてこんな素人みたいな“書評家”に書かせるんだろう。なくてもいいじゃないか。余韻もなにもあったもんじゃない。光文社ももうちょっと大事に作ってほしいもんだ。ちなみに本書の解説は、元・本の雑誌の吉田伸子が書いている。
佐藤正午の青春文学8篇。
「走る女」走る女。
「恋売ります」デートクラブ。ようこという名のあゆみ。
「糸切り歯」青春の蹉跌。
「ラムコークを飲む女について」友だちの女。外見は色白。
「ソフトクリームを舐める女について」続・友だちの女。和子は20歳前後。
「クロスワードパズル」アイロン掛けにつかう道具(4文字)
「イアリング」向かいの部屋の女。
「卵酒の作り方」続・友だちの女(風邪引き)。
吉田伸子の解説いらぬ。
1990.5.25初版。単行本は87年3月刊。
個人的佐藤正午ブーム継続中、です。今回はじつにスタンダードな“青春小説”。タイトルに惹かれても、あるいはタイトルで敬遠しても、どっちも不正解。
舞台は1973年。主人公は高校三年生で野球部の野呂光。西海市にある進学県立高校で甲子園をめざしつつも、海藤、金森、小林という三人のクラスメートとつるんでいる。そういう少年の高校生活なのだが、とりたてて大事件が起こるでなし、ごく平和。平和ななりにいろいろあるわけですが。恋をしたりとかね。
エピローグとプロローグは31歳の彼の視点から語られる。そして、そう、同級生の海藤正夫は、あの“おなじみの”海藤正夫で、31歳の今はちゃんと小説家になっているのでした。
2000.5.18初版。佐藤正午の新刊が、なんと岩波から、出た。どうしちゃったんだろ。
しかし、収録されているのは何年も前に書かれた「野性時代」に発表した短篇5本と書き下ろしが1本。そして、いずれも競輪がテーマの短篇である。
ふつう読まないよ、競輪小説なんて。
佐藤正午じゃなかったら絶対読まないでしょう。しかし手に取らせてしまう、読ませてしまうところが佐藤正午の魅力。
競輪で道をあやまったり、哲学をもってしまったり、まぼろしを見たりするような、あまり関わり合いになりたくはない人たちが主人公となり、奥深い競輪の世界にいざなって……くれるわけじゃなくて、そういう人たちもやっぱり普通の人間で、そんな競輪ばっかりじゃなくて、ちゃんと普通の小説になってます。すくなくとも、競輪じゃなく競馬や競艇におきかえても大丈夫。ってそれじゃダメじゃん。うそです。おもしろいです。
1998.2.18初版。親本は1991年8月講談社刊。
デビュー作が売れに売れている小説家“海藤正夫”(もちろん“西海市”在住である)の、酒びたり女まみれの日々。15章からなる長篇だが、各章ごとにスタイルをかえてある。一問一答、読者からの手紙、電話、講演、とかね。こういう“実験”性は、佐藤正午にしてはめずらしいのではあるまいか。ふだんの佐藤正午小説に慣れていると、すこしとっつきにくいかもしれない。もっとも、いつも同じパターンだと飽きてしまうからいいんだけどね。
小説を書くのは金のため、金こそすべて、と豪語する新人作家海藤の堕落と破滅と再生。さいごにたどりつく、シリアスな文学観。読む方が気恥ずかしくなったりして(もっともそれはあくまで登場人物である作家海藤の話であって、作者佐藤正午とは関係ない、らしいのだが)。83年にデビューした佐藤正午が、91年にこれを書いたことの意味とか、いろいろ深読みしたくもなってくる。わかりゃしないんですがね。
誤植発見。
p96L5 連想するなて。
p181L17 ジョグに乗って。ジッグって、
うーん、さすがは角川春樹事務所(!?)。
2001.7.25初版。単行本は96年12月角川書店刊。『ジャンプ』のヒットのおかげで文庫になったんだろうか。
単行本もうちにあります。持ってます。読みました。でも内容、忘れてた。忘れてたくせにこんなこというのもナンですが、いいなあこれ。佐藤正午らしさが満ちあふれている。
いちいち内容を説明するのももどかしい。っていうか内容なんてどうでもいい(よくないけど)。Uターン就職の県庁職員である主人公と風来坊の叔父さんの話、なんだけど、そんな説明じゃ読む気にならんわな。主人公は、なんというか、もう女をめろめろにしてしまうテクニックの持ち主なんだけど、うーん、それも「引き」にはならんか。
とにかく、だ。佐藤正午の「芸」がとことん楽しめる一冊です。佐藤正午ファンは読むべし。
「僕」には唯一の才能があった。それは「女を夢中にさせること」。県庁勤めの役人としてそつなく仕事をし、複数の女を適宜使い分けて過ごす日々。しかし、叔父・酔助の登場により「僕」の無難な生活は変化しはじめる。「夢と現実の人生を総取っ替えしてもいい」という酔助。いつしか「僕」は、酔助とその“ニンフェット”とともに無謀な計画に荷担する。ル・グラン・モマン。
帯に「『ジャンプ』以前に書かれた『ジャンプ』以上の傑作」とあるが、これは信じてもいい。久しぶりに日本語による小説らしい小説を読んだような気がする。
2000.2.25初版。親本は1997年刊行。
連作短篇集で、最初の短篇の主人公があとから出てきたり、こっちの脇役があっちで主役だったり、といった具合に連鎖している、例のパターン。おもしろいです。しかし最近は記憶力が馬鹿なので、これ誰だっけ、と読み返したりすることもしばしばであった。いちいちメモを書いて分析すると面白いのかもしれないが、そこまではやらん。
それにしての解説(谷村志穂)はいらんなあ。意味、あるのか? 半分以上が内容の引用もしくはあらすじで、挙げ句の果てには自作に対して読者から送られてきた手紙の引用まででてくる。ナニを考えておるのか。
2000.9.25初版。雑誌「Gainer」1999年1月号から2000年8月号まで連載。
佐藤正午の長篇は『Y』以来かな。
あいかわらず巧い。読ませます。つきあって半年のガールフレンド宅に行った主人公。そのガールフレンドが、ちょっとコンビニでリンゴを買ってくるといって出ていったきり失踪してしまった。そんなのって、あり?
しかし佐藤正午の手に掛かればアリなのだった。
最後に明かされる真相は、他愛ないというかわかりやすすぎたけれど、そこにいたる過程の構成、そしてなにより文章の力というか吸引力が、こちらをひっぱりこんで放さない。
いいかげんな作文レベルの文章を書き散らしているだけの作家が多い昨今、佐藤正午のような人には、もっとじゃんじゃん書いてもらわなくては、と思うのである。
2001.12.10初版。『ありのすさび』につづく佐藤正午エッセイ@岩波書店の第二弾。1990年代に書かれたもので構成されている。
読んでみてわかるのは、やはり自分は佐藤正午の書いたものが好きだということ。佐藤正午が嫌いな人は、面白くもなんともないだろう。あたりまえか。どこまでほんとうかはわからないが、あの作品この作品が書かれたときの、裏話っぽいエピソードがうれしいのである。
これからも、どんどん象を洗って欲しいものだ。
『ありのすさび』に続く第2弾。佐藤正午の「等身大の小説家的生活」エッセイ集。面白いのは小説の執筆風景や、作中の小道具が出てくるところ。たとえば最終章では、『取り扱い注意』(角川文庫)で主人公が凝っているスクラブル・ゲームに、著者が実際に明け暮れてつつ書いているという日常生活の様が綴られている。ファン向け。
2001.1.26初版。佐藤正午の第二エッセイ集。へえ、まだ2冊しかなかったのか。ちなみに第一エッセイ集は『私の犬まで愛してほしい』。
佐藤正午が好きな人にはたまらない、どうでもいい人にはどうでもいい、エッセイの寄せ集め。初出は、企業広報誌と西日本新聞が中心で、ほかにこまかいコラムなども。
「国語辞典」とか「犬の耳」とか、個人的にもツボにはまったテーマが多く、楽しめました。新聞連載コラムを代打に頼んで海水浴に出かけた(という設定の)回に、読者からの抗議が殺到って話には、作者ならずとも暗澹たる気持ちにさせられましたが。みんな、そんなに暇なのか。
諧謔の日々、哀愁の季節――佐藤正午のエッセイ集。初出は日機装株式会社広報『BRIGHT』、『西日本新聞』ほか。日機装って何? どこ? 誰? 1955年生まれということは四十六になるのか。それにしてはもうなんか、ほとんど山田風太郎。いいのかこんなことで。ファン必読の書。
last updated : 2003/2/1
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