佐野眞一(さの・しんいち)


【エッセイ・NF】
だから、君に、贈る。
てっぺん野郎 本人も知らなかった石原慎太郎
だれが「本」を殺すのか 延長戦
だれが「本」を殺すのか
東電OL症候群
私の体験的ノンフィクション術
凡宰伝



だから、君に、贈る。  4-582-83172-9
平凡社 1500円


 同社刊の『だから、僕は、書く。』と対になる講演・インタビュー集。「はじめに」から第四章までは、千葉県流山市での「心のフットワークで事実に迫れ!」という題の講演を元に、大幅加筆・修正したもの。NHKの「課外授業 ようこそ先輩」(2002.11.24放映)にまつわるエピソードをとくに興味深く読んだ。
 佐野眞一ファン向け。

★★★(2003.10.29 白犬)


てっぺん野郎 本人も知らなかった石原慎太郎  4-06-211906-4
講談社 1900円


 月刊『現代』2002年9月号から2003年6月号まで7回にわたって発表した「誰も書けなかった石原慎太郎のすべて」を大幅加筆・修正。
 巻末の略年表、参考文献一覧、人名索引を入れて約500ページ及ぶ大著である。取材で会った関係者は二百人超、取材現場も逗子、葉山から宇和島、八幡浜など四国各地、さらに旧樺太、ベトナムなど海外へも足を伸ばし、扱う年代も明治から平成の約150年間を視野に入れたと「あとがき」にある。 副題の「本人も知らなかった〜」というのは大げさでもなんでもない。石原慎太郎は著者に感謝すべきであろう。
 第43回総選挙を控えた2003年10月末現在、石原慎太郎都知事は、日本が朝鮮半島を植民地化した「日韓併合」を「どちらかといえば彼ら(朝鮮人)の先祖の責任」などと発言し、またぞろ物議をかもしている。だけども、石原慎太郎が問題発言をしても「あの人だからしょうがないや」と、多くの人が思ってしまうのはなぜだろうか。著者は、同じ作家出身の田中康夫長野県知事を引き合いに出した「第一章 若い日本の社会」の中でこう述べている。

作家と政治家の両方に注意深く軸足をかける慎太郎の方が、したたかさという点において、やはり数段上だと言わざるをえない。「政治家」慎太郎がいくら過激な発言をしようととも、あれは「作家」慎太郎が言ったこと、と言い繕えば、うやむやになってしまうのが、この国の社会風土である。(p340)

 こういうことがきちんと丁寧に書かれているところに、失礼ながら著者の意気込みを感じる。さらにいえば、対象が「なまじ作家」だからこそリキが入っているとも感じる。そういうとこ、好き。
 慎太郎のすべてを書いた決定版評伝、おすすめ。

★★★★★(2003.10.28 白犬)


だれが「本」を殺すのか 延長戦  4-8334-1738-3
プレジデント社 1600円


 2002.5.3初版。「本コロ」続編。著者の講演、対談、インタビュー、さらに本編についての書評が収録されている。佐野先生けっこうお話もされるんですね。ただ、とうぜんのことながら内容は繰り返しが多くなる。とくに、買わなくても。

★★(2002.5.30 白犬)


だれが「本」を殺すのか  4-8334-1716-2
プレジデント社 1800円


 2001.2.15初版。プレジデント誌連載「『本』は届いているか」(1999.2〜2000.3)改稿、大幅加筆。
 活字離れ、少子化、出版界の制度疲労、そしてデジタル化の波――未曾有の危機に「本」が悲鳴を上げている――豪腕「大宅賞」作家が取材・執筆に丸2年、1千枚に刻み込んだ渾身のノンフィクション。通称「本コロ」。雑誌掲載時はぜんぶで200枚弱しかなかったというからすごい。
 あまりの評判に手が出なかったが、このたび続編とともに一気読み。いやはや評判通りでございました。書店、流通、出版社、地方出版、編集者、図書館から、ブックオフやデジタル化まで、出版に関するありとあらゆることが書かれている。とくに関係者必読の書。
 本書を読んで再認識したことのひとつに、わたしにとって読書は趣味などではなく、習慣だということがある。ひねくれた子どもだったために友だちがおらず、偶然にも母の実家が本屋であったために、否応なしに身についた、大いなるひまつぶしの方法である。子どものわたしにとって本は、ページを開きさえすれば行くことができるワンダーランドであった。いまの子どもは昔の子どもに比べるとずいぶん忙しいようだし、ひまがあったとしても、本みたいに面倒くさいものを、自発的に選ぶことは希だろう。少子化の問題だけとってみても、出版界の模索の時代はそう簡単には終わりそうもないように思う。

★★★★☆(2002.5.29 白犬)


東電OL症候群  4-10-436902-0
新潮社 1600円


 2001.12.15初版。『東電OL殺人事件』の続編。ネパール人ゴビンダ被告をめぐる裁判を軸に、ゴビンダ再拘留にかかわった東京高裁判事、村木保裕の少女買春容疑による逮捕から弾劾裁判までの約1年半が描かれている。村木判事とは、裁判長に「単なるロリコンか、スケベおやじ」と言われた人です。いろんなことがありましたね。正編のようなスリリングさはないが、村木というニュースターの登場もあり面白く読めた。

 正・続を通じてひとつだけ食い足りないのは、東電OL・渡辺泰子の売春行為以外の“性”が描かれていないことである。拒食症などの兆候があったとはいえ、内向した破壊衝動が歪んだ性行為に直結したとはどうしても思えない。それまで「なんにもなかった」ような女が、ある日突然、円山町の暗がりに立つだろうか。学生時代から勉強が忙しく、とてもそんなヒマはなかったか。もしかしてウラは取れていて書かなかっただけとか? 知りたい。

★★★★☆(2002.1.12 白犬)


私の体験的ノンフィクション術  4-08-720117-1
集英社/集英社新書 680円


 2001.11.21初版。民俗学者、宮本常一に学んだ「あるくみるきくかく精神」。『東電OL殺人事件』など、自作の“方法”を綴る、佐野眞一の自伝的文章・取材術。これはすごい。ノンフィクション作家志望者必読の書。

★★★★★(2001.12.8 白犬)


凡宰伝  4-16-356240-0
文藝春秋 1619円


 いまさらといわれそうだが本書。
 雑誌掲載のルポ「小渕恵三『真空総理』の正体」とインタビュー「タカもハトもない、俺は凡才宰相だ」をベースに追加取材の上、大幅加筆。プロローグは「ブッチホン」。ほめ殺し系「偉人伝」とは違います。本書の中で著者は小渕を「ハイパー庶民」と名付けている。たとえばこういうところ。

 スマートさとは最も縁遠い政治家だ。絵画や音楽、映画が好きだといってるが、本当にわかっているとはとても思えない。要するに芸術のかもし出すムードが好きなのであって、この点でも田舎者以外の何者でもない。食についてもグルメではなく、胃袋を満たすことを最優先する。馬刺し、ホルモン焼き、焼き肉が大好きで、あらゆるものに味の素をかける。ソースもびしゃびしゃ、醤油もびしゃびしゃ。朝からでも平気でステーキを平らげ、食後はきまって郷里から送らせた伊香保の温泉饅頭を二個食べる。(p35 小渕派の内情に詳しい新聞記者の談話より)

 しかし、小渕という男をあまり深読みしすぎて分析するのはたぶん危険である。小渕は自分より上の者に対する憧れを隠せないだけの単なる「田舎者」だったのかも知れない。(p217)

 「政治用語をできるだけ排することを心がけた」とあって非常に読みやすい。伝記好きとしてはなんといってもエピソードだが、これもいいとこ取りといったかんじで楽しめる。「サメ脳」より「ボキャ貧」のほうがずっとましだと思うよ。

★★★★(2000.10.10 白犬)

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last updated : 2003/11/03
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