金城一紀(かねしろ・かずき)


【長篇】
フライ、ダディ、フライ
GO

【短篇集】
対話篇
レヴォリューションNo.3

【エッセイ・NF】




対話篇  4-06-211530-1

講談社 1400円


 2003.1.30初版。金城一紀同時2冊発売のうちの1冊。3篇収録。
「恋愛小説」“僕”が大学時代に出会った、風変わりな友人の話。彼は子供の頃から《死神》と呼ばれていた。親しい友人や家族がつぎつぎと死んでいくからだ。書き下ろし。
「永遠の円環」“僕”は末期癌に冒されている。しかし、死ぬ前にどうしても殺さなければならない人間がいた。初出「小説現代」00年9月号。
「花」動脈瘤がみつかった“僕”は、冤罪事件で無罪を勝ち取った弁護士が鹿児島へドライブするのに同行するというアルバイトを請け負う。初出「小説すばる」01年3月号
『フライ、ダディ、フライ』などの明るい青春ものとは違って、3篇いずれもテーマは《死》。重い。暗い。救いがないといえばないのだけれど、ふしぎと読後感は悪くない。「花」は、なかなかじんとしました。いいです。
 おもしろいのは、どの短篇でも主人公は法学部学生あるいは卒業生っであり、どの短篇にも谷村という男が――脇役だったり重要な人物だったりという違いはあるが――出てくること。どういう意図なんだろうかね。

★★★★☆(2003.2.11 黒犬)



 白地に小さなスミ文字だけというシンプルな装幀。装幀・著者とある。扉の水彩画を描いた鴨居まさねは漫画家さん。お友だちなんだろうか。
FLY, DADDY, FLY』(講談社)と同時刊行された本。「ちょっと変わったことをやりたかっただけ。僕の違う資質をみせたかったこともあるし」とご本人。なるほど装幀からして対照的だ。書き下ろしに「小説現代」「小説すばる」掲載作品を加えた中篇3本を収載。表題通り登場人物の「対話」をメインに据えている。それぞれに味わい深い作品に仕上がっているが、とくに、別れた妻の記憶を取り戻そうとする弁護士との旅を描いた「花」いい。五十八歳を「老弁護士」としてもいいのかというささやかな疑問は別として、言葉はわるいが「左翼くずれ」のおっさんがとてもよく描けている。この作品にだけは最高点を捧げたい。★★★★☆は3篇の平均ということです。

★★★★☆(2003.3.8 白犬)



フライ、ダディ、フライ Fly, Daddy, Fly  4-06-211699-5

講談社 1180円


 2003.1.31初版。金城一紀待望の書き下ろし長篇。
 というわけで長篇です。主人公はおっさんです。でも心配はいらない。あの朴舜臣も南方も山下も出てきます。
 47歳のサラリーマン鈴木一。パッとしない普通の会社員だけど、妻と一人娘だけが自慢。平凡な彼にとって彼女たちだけが「特別」だったのだが、ある日その世界が破綻を来す。娘の遥が傷つけられた――。
 ダメなオヤジが若者に負けずになんとか“頑張る”、そういう話です。さして珍しくもない。しかし主人公が知りあう若者たちが一筋縄ではいかない連中――落ちこぼれ高校の悪ガキども――だから面白くなる。もうたまりません。一気読み。
 例によっての悪ガキどもへの共感ももちろんですが、すでに若者たちよりオヤジ側に近くなってしまったワタクシのオヤジゴコロも微妙にくすぐってくれる、なんとも憎い一冊。お勧めです。

★★★★☆(2003.2.9 黒犬)



GO』で第123回直木賞を受賞した金城一紀の書き下ろし長篇第2作。
 愛娘を傷つけられた父親の復讐譚。といってもおっそろしい暴力小説ではない。主人公の鈴木一は四十七歳のサラリーマン。中肉中背。おおむね健康。ただし、駅の階段の上がり下がりがかなりしんどくなってきているという体。一方、都内の名門校に通う復讐相手はそこらへんの不良とはひと味違った。なんとボクシングの高校チャンピオンだったのである!
 弱っちい男が強くなって復讐を遂げるという話は少なからずあるが、主人公を極端に平凡なサラリーマンにしたことで、この物語はすでに八割がた成功している。ベタな表現もファンタジーと思えばどうということはない。毎日、同じ時刻のバスに乗る、名も知らぬお仲間たちとのエピソード秀逸。楽しく読んだ。

★★★★(2003.2.12 白犬)



レヴォリューションNo.3 Revolution No.3  4-06-210783-X

講談社 1180円


 2001.10.1初版。金城『GO』一紀の直木賞受賞第一作連作中篇集。「レヴォリューションNo.3」は「小説現代」98年5月号、「ラン、ボーイズ、ラン」は同じく98年12月号、「異教徒たちの踊り」は一番長くて書き下ろし。
 主人公は、新宿にある三流男子高校の“僕”と、その仲間たち“ザ・ゾンビーズ”。彼らの繰り広げるバカ騒ぎは、女子高の文化祭への突入だの、旅行資金を強奪されてその犯人を追っかけるだの、女子大生をつけ狙うストーカーをやっつけるだの、まあそういう突拍子もないことばっかり。
 いいです。キャラクターがいい。“僕”はもいいやつなんだが、脇役がいい。日本人とフィリピン人のハーフ、アギー。成績もよく腕っ節も強い在日コリアン、舜臣。ザ・ゾンビーズのリーダーで将来はシュショーになるというヒロシ。そして、史上最弱のヒキを持つ男、山下。こいつ、おかしい。お約束のダメキャラなんだけど、なんか、いい。
 ばかばかしいけど、ちょっと泣かせる。照れくさいけど、ちょっとなつかしい。『池袋ウエストゲート・パーク』に、少しだけ雰囲気が似ているけれど、こっちのほうが、むちゃくちゃで(いや、IWGPだって無茶なんだけどね)エネルギッシュのような気がする。
 金城一紀の直木賞は、フロックではなかった。
 一読の価値、あり。

★★★★☆(2001.11.11 黒犬)



 初出「小説現代」2篇+書き下ろしの3篇
収録。直木賞受賞第一作。映画化で話題になった『GO』の人ですね。
 オチコボレ男子校3年生の僕たち。武器はMoney、Penis、上腕二頭筋、そして努力――。描かれている世代が似通っているせいで、『池袋ウェストゲートパーク』と比べてしまうが、こっちはいちおう学校に行っている。
 表題作「レボリューションNo.3」は、近くにあるお嬢様学校の「学園祭破り」を描く。荒らしに行くのではない。目的は「勉強の得意な女の遺伝子の確保」。「ラン、ボーイズ、ラン」は、死んだ仲間の墓参りのための資金稼ぎ。《史上最弱のヒキを持つ男》の異名を持つメンバーが全員分の旅費カツアゲされて……。書き下ろしの「異教徒たちの踊り」いい。僕こと南方くんはある日、知り合いの女子大生のボディーガードを依頼される。毎晩、決まった時間にイタ電をかけてくる謎の人物。ミステリ仕立てでありながら、前2編の雰囲気がうまく取り込まれている。
 もっと長い作品が読みたい。次作大いに期待。

★★★★(2001.11.23 白犬)



GO  4-06-210054-1

講談社 1400円


 2000.3.30初版。著者初の単行本にして第123回直木賞受賞作。あわてて買ったのは7月3日の二刷。初版8000、2版3000、で直木賞とって3版10万だそうで。わはは。
 いやあこれはいいわ。
 著者は68年生まれの“コリアン・ジャパニーズ”。なんて著者紹介があると、ちょっと躊躇ってしまうのだが、読み始めたら一気。
 主人公は、在日コリアンを両親にもつ二世・杉原。朝鮮学校から日本の高校に入学し、そうとうならしているハイティーン(なにしろ父親は元プロボクサーだ)。パーティで知り合った女の子・桜井との恋を縦糸に、同世代の日本人・朝鮮人の友人たちとのやりとりや、親世代とのやりとりが絡み、なんとも切なく痛々しい青春が語られる。
 なんとなく作りすぎの印象を受けないでもないが、それは私自身が彼らの現実を知らないというだけのことなんだろう。一読の価値あり。

★★★★☆(2000.7.17 黒犬)

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last updated : 2003/4/23
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