乙一(おつ・いち)
2002.7.1初版。若手乙一の連作短篇集。6本収録。うち2本は「ザ・スニーカー」に掲載され、残り4本は書き下ろし。
うーん、これはなんといったらいいのか。ミステリー、なのかなあ。帯には“センシティヴ・ミステリー”などと書いてある(わけわかんねえよ)。
主人公は高校生の少年。同じクラスに森野夜という女生徒がいる。ある夏の日、森野は手帳を拾ったという。その手帳は、連続殺人事件の犯人のものだった――。という感じで、巻頭を飾る「暗黒系 Goth」は幕を開けるんですが。
猟奇的な犯罪があり、主人公たちがそれに関わる。でも、よくある少年探偵もののように、犯人を捜したり事件を解決したりということはしない。いっぷう変わった連作で、後味がいいともいえない。しかしなんとなく、奇妙な魅力がある。
トリッキーな「犬 Dog」や「声 Voice」は、やられた、と思いました。だから、まあミステリーなんでしょう。23歳でこれだけのものを書けるというのはすごいのかもしれない。でもそれに甘んじていてはいけないとも思う。「お金に換金しているのかしら」(p97)のような文章書いていてはいかんのではないか。現実ばなれした会話文は、この人の持ち味なんだろうけれど、もっとブラッシュアップできると思う。
著者名は「おついち」と読む。グラビアアイドルの乙葉ちゃんとは無関係です念のため。
初出「ザ・スニーカー」2篇+書き下ろし。「このミス」2003版で堂々の第2位を獲得した全6篇からなる連作集。「天才・乙一、初のハードカバー登場!」というコピーがおかしい。表題「GOTH(ゴス)」は「GOTHICの略」と作中にある。ナイフのシルエットを使った装幀すてき。
夏休み半ばの出校日、クラスメイトの森野が見せてくれたのは連続殺人犯の日記だった。喫茶店で拾ったのだという。手帳にはすでに報道された事件のほかにも類似の書き込みがあった。「僕」と森野は手帳にあったS山麓へ死体を見に行く約束をする。
いかにも体温低そうな、語り部の「僕」とクラスメイトの少女が猟奇殺人事件の犯人を追跡するという内容だが、わかりやすい「正義」や「常識」はいっさい存在しない。この「新しさ」読めばわかる。全編甲乙つけがたいが、とくに「声」いい。
「本格」のイメージから長い間手が出なかったが、意外にも楽しく読めた。ああそうだ、5篇めの「土」は閉所恐怖症の人には不向き。寝る前に読んでうなされてしまった。
2002.4.25初版。2002.5.10第2刷。乙一の文庫書き下ろし345枚。
天涯孤独の盲人女性ミチル。彼女の家に、殺人事件の容疑者アキヒロが忍び込む。
という、じつに無茶な設定ではじまるサスペンス。でもちょっといい。いや、いくら目の見えない人んちだからって、そこに何日もとどまるって無理でしょう。音には敏感だろうし、音をまったくたてなかったとしても、においや空気の動きなんかでもバレると思う。
なので、そういう細かいところにこだわれば、まったく現実味のない駄目サスペンスだと思います。が、それはそれとして読み進めると、これはサスペンスというよりファンタジーに近いということがわかってくるわけです。
くわしく書くとマズいんでやめときますが、なかなかいいです。78年生まれの若者、がんばってます。前の『死にぞこないの青』より“救い”があって、いいなあ。ほっとします。今後も期待だ、乙一。
2001.10.25初版。文庫書き下ろし270枚。
小学校5年生になったマサオをおそった、いじめの恐怖。こりゃこわいです。なにしろ担任までマサオを「いけにえ」にしちゃうし。でもきっと、こんなことも現実にはあるんだろうなと思ってしまう。そして、現実の子らは、マサオのように客観的に考えることはできず、その結果、袋小路に入ってしまい、自殺するか不良になるか、よくても引きこもりになってしまうわけだな。
などと真面目なことを考えても仕方がないのだが、インパクトのある佳品でした。
2001.7.25初版。親本は98年4月集英社刊。ジャンプノベルスだったのかな。
『夏と花火と私の死体』につづく乙一(おついち)の第二作。表題作他1篇。他1篇のほうの「A MASKED BALL」は学園ホラー、表題作「天帝妖狐」はごくスタンダードなホラー。学園ホラーのほうはありがちでつまらない(けどわかりやすいから一般ウケはするかも)、「天帝妖狐」のほうもありがちといえばいえなくもないけれど、なかなか雰囲気がよいです。わたくしとしては表題作を推します。240ページほどの厚さだからすぐ読めます。
それにしても、新本格連中がこぞって褒めそやすのはどういうことか。ほかの読者――識者であるところの――はいないのか。いまどき新本格の“お仲間”にしてもらっても得なことはなにもないと思うが、どうか。
2000.7.30初版。変な名前、の乙一(おついち)は、17歳のときに『夏と花火と私の死体』でデビューした新鋭です。なにしろ1978年生まれってんだから若い。そんでもってデビュー後に「Jump Novels」に書いた3篇、「石ノ目」「はじめ」「BLUE」と書き下ろしの「平面いぬ。」、計4篇が収録された短篇集が本書。
なんでだか、けっこう気に入ってしまった。小野不由美や綾辻行人が絶賛するほどすごいとまでは思わないけれど(まあ帯や解説は絶賛しなくちゃ始まらないんだけどね)、どれもなかなかよかったです。一応ホラーに分類されるのか。青春ホラー、とか(笑)。ホラーにしてはあたたかい味わいで、ちょっとおセンチ系です。
見る者を石に変えてしまうという妖怪“石ノ目”。遭難して彼女の家に逗留することになった主人公とその友人。
友人との妄想遊びから生まれた少女“はじめ”とともに、秘密の下水道ですごした子供時代。
ふしぎな生地でつくられた不細工でけなげなぬいぐるみ“ブルー”。
女子高生がいたずらで入れてしまった入れ墨の犬“ポッキー”と家族の絆。
「はじめ」「平面いぬ。」がとくによかったです。
2000.5.25初版。96年10月集英社Jブックス刊。
というわけで78年生まれの若者(「おつ・いち」と読むらしいです。変なの)のデビュー作。表題作で第6回ジャンプ小説・ノンフィクション大賞受賞。第二作「優子」を併録。
当時17歳ですからもう未熟みじゅく。解説の小野不由美はべた褒めですが、やや褒めすぎ(解説だからしょうがないけど)。とはいえ、なかなか気のきいたホラーに仕上がっています。語り手は五月という少女で、なんと死体。彼女の死体をどう処理するかが主眼のどたばたですから、「ハリーの災難」みたいですけど、全然違います。
まあ未熟ですけど今後に期待できる、かも。
last updated : 2003/2/19
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