ジョー・R・ランズデール(Joe R. Lansdale)

【長篇】
テキサスの懲りない面々
モンスター・ドライヴイン
ダークライン
アイスマン
ボトムズ
テキサス・ナイトランナーズ
人にはススメられない仕事
バッド・チリ
凍てついた七月

【短篇集】

【エッセイ・NF】





テキサスの懲りない面々
Captains Outrageous  4-04-270107-8
鎌田三平・訳 角川書店/角川文庫 952円


 ハップ&レナードシリーズ第5弾。
 鳥肉工場の警備員として日銭を稼ぐハップは、ある夜、暴漢に襲われた少女を助ける。その少女はなんと鳥肉工場のオーナー令嬢だった。大金と休暇を与えられたハップは相棒レナードを誘ってカリブ海クルーズに出かけるが、そんな幸運が続くはずもない。寄港した船に乗り遅れてメキシコの漁村プラヤ・デル・カルメンに取り残された二人は、老漁師とその娘のトラブルに巻き込まれ、マフィアに目をつけられる羽目に。最大のピンチにテキサスの仲間たちが大結集する。
 扉裏の「主な登場人物」を見ただけで頬がゆるむ。ハップ・コリンズ「落ちこぼれ白人」。レナード・パイン「ゲイの黒人、ハップの相棒」。相変わらず下品炸裂だが、5作目ともなると、そのものズバリより細かなエピソードに喜びを感じる。たとえば冒頭でハップが休憩時間にコーヒーを飲む場面。

レナードに最後の二十五セント玉をやってしまったので、無料のカフェイン抜きコーヒーを飲むことにし、カップに注いだ。無料のクリーマーをたっぷり入れる。そうしないと、この鳥肉工場のコーヒーは、中で何かが死んでいるような味がするからだ。
 スチロールのカップに入ったコーヒーをプラスチックの棒でかきまわし、一口すすった。まだ、なにかが死んでいるような味がする。クリーマー入りの。(p.7)

 例によってあっち行ったりこっち行ったりで忙しい二人だが、今回のケリのつけ方はちょっと恰好よすぎる。
 巻末で林家こぶ平師匠が熱く語っておられるが、ファンとしては訳者の解説希望。
▽ランズデールの公式ファンサイト
 http://www.joerlansdale.com/

★★★★(2003.8.20 白犬)


 2003.5.25初版。(c)は2001年。〈ハップ&レナード〉シリーズ最新作。
 鳥肉加工場の警備員をやってるハップ、いきなり暴漢に襲われた娘を助けるという“正しいこと”をやってしまう。おかげで休暇と謝礼を受けとることになり、レナードとともにカリブ海クルーズへ。ここまではよかったのだが、もちろんそれだけでは話は終わらない。トラブルに巻き込まれてこそのハップとレナード、メキシコで大活躍……!?
 相変わらずレナードはトバしてるんだが、その分ハップの覇気が落ちてるような。って、前作でも似たような感想だったな。
 恋人ブレットにふられ、それをうじうじ考えつつ、メキシコで出会った娘ベアトリスともうまいことやってしまうというのは彼らしいんだけども。
 残虐な強敵に、あわや皆殺しかとも思わせるが、案外ぬるい敵だったりするのが、なんだかなあというところ。主人公二人は絶対死なないというお約束があるから緊迫感が薄れてしまうのは、この手のシリーズものとしては仕方がないのだろうけれど、もっといろいろドキドキさせてくれればよかったのにな、と読み終わったあとには思ったり。読んでる最中は楽しんでるんだから文句はないのですがね。

★★★★ 2003.10.9 黒犬


モンスター・ドライヴイン
The Drive-In  4-488-71701-2
尾之上浩司・訳 東京創元社/創元SF文庫 600円


 2003.2.14初版。原著(c)は1988年。ランズデール初期のドタバタホラー作品。『テキサス・ナイトランナーズ』と『凍てついた七月』のあいだに書かれたということですな。こんなんも書いてたんかアンタは……。
 いやもうなにがなんだか。
 金曜の夜のドライブインシアターが突然異空間に閉じこめられてしまってさあ大変、っていうお話。
 極限状態の人間の下劣さとか、深読みすればそれなりに興味深いところもあるんだけど、まあそんなのはつけたし。要はノれるかノれないかという問題でしょう。微妙だけど。
 ランズデール好き好きすっごく好き大好きもうたまらん、という人以外には勧めづらいなあ。

★★★(2003.6.10 黒犬)


ダークライン
A Fine Dark Line  4-15-208480-4
匝瑳玲子・訳 早川書房 1800円


 2003.3.10初版。物語の舞台はテキサスの片田舎デューモント。1958年。修理工のスタンリー・ミッチェルは売りに出されていたドライヴイン・シアターを買い取り、家族と飼い犬とともにデューモントに移り住む。夏。13歳のスタンリー・ジュニアは森の近くで土に埋もれた小箱を発見する。中に入っていたのは恋文と日記の切れ端。書かれた内容に興味を持った姉キャリーは持ち主を探ることを提案する。森に入った二人がたどりついたのは朽ち果てた屋敷だった。
 傑作である。傑作を読んだ興奮で頭がくらくらした。果てには涙まで出た。帯に「『ボトムズ』を凌駕する」とあるが、なんなら「『ボトムズ』は本作のための練習だった」としてもいい。
 本作はボトムズ同様、回想形式をとっている。ドライヴイン・シアターを経営する父と母、年頃の姉、黒人女中のロージィ・メイ、元お巡りでアル中の映写技師バスター、友だちのリチャード、そしていつもスタンリーの側にいる飼い犬ナブ。過去の殺人事件を追うというサスペンスに織り込まれた、少年と家族や友人との交流はそれぞれに印象深く、各キャラクターに対する作者の愛着がひしひしと感じられる。とくに飼い犬ナブと映写技師バスターいい。
 ナブはたんに「雑種」とあるが、リスを追って小枝に乗るくらいだから小さな犬だろう。本書が作者の亡き飼い犬に捧げられていることをとくに追記しておく。

 このたび立て続けにランズデール作品3作を読んだ。刊行順だと『ボトムズ』『アイスマン』『ダークライン』だが、最初に読んだのはじつは『ダークライン』である。そうでなければあとの2冊を読まなかったかもしれない。「ハップ&レナード」シリーズ以外のランズデールを知るいい機会になった。
『ダークライン』をすすめてくれた黒犬に感謝。
 ところで訳者の名は「そうされいこ」と読む。『アイスマン』の七搦さんといい、すらっとは読めませんなあ。

★★★★★(2003.3.27 白犬)


アイスマン
Freezer Burn  4-15-208398-0
七搦理美子・訳 早川書房 1600円


 2002.2.10初版。死んだ母親をゴミ袋に入れて“凍結乾燥”しているビルが、困窮の果てに思いついたのはケチな強盗だった。な、ちょろい仕事だろう――ビルは遊び仲間を誘う。だが結果は惨憺たるものだった。警察に追われた彼らが逃げ込んだのはヌママムシと蚊の群生地、サビーン川沿いの低湿地“ボトムズ”。仲間が死に、追ってきた警官も死に、命からがらボトムズを抜け出したビルはフリークショーの一座に助けられる。
 帯に「『ボトムズ』をしのぐ傑作」とあるが、『ボトムズ』のような南部少年小説ではない。「ハップ&レナード」シリーズ寄りの「南部いかれた野郎小説」である。どこまでも果てしなくダメな男を描ききっている。作者の仏心からか、ダメ男が途中からまともなことを言い出してつまらなくなる作品は多いが、本作の主人公ビル・ロバーツはそんなことはない。もう気の毒なくらい、徹頭徹尾ダメである。
 一座を仕切るフロストとギジェット夫婦のほかには、ドッグマンのコンラッドいい。後半のゴンドラの場面では思わず涙が出た。『ボトムズ』でもマキャモンを出してしまったが、本作でも旅回りのフリークショーに『遥か南へ』(文春文庫)を思ってしまった。買って損なし。ところで訳者の名は「ななからげりみこ」と読む。

★★★★☆(2003.3.26 白犬)


ボトムズ
The Bottoms  4-15-208376-X
大槻寿美枝・訳 早川書房 1800円


 2001.11.10初版。2001年MWA(アメリカ探偵作家クラブ)賞最優秀長篇受賞作。
 1933年夏。11歳のハリーは重症を負った飼い犬トビーを処分しに妹トムとともに森に入り道に迷ってしまう。子どもをさらうという魔物ゴート・マンの影に怯えながら、ようやくたどり着いた川岸で二人が見たものは、黒人女の惨殺死体だった。地域の治安官を務める二人の父ジェイコブはただちに捜査を開始し、事件がその一件にとどまらないことを知る。
 テキサス東部を流れるサビーン川沿いの低湿地“ボトムズ”を背景に描いたサイコミステリ。八十歳を過ぎた主人公ハリーの、老人ホームでの回想という体裁をとっている。パパが、ママが、といった語り口に少々もたつくし、濃厚な自然描写や黒人差別をめぐる問題を除けば、ミステリとしてはいまひとつの感もあるが、こういう時代がかった「少年小説仕立て」にわたしはからきし弱い。とくに父と息子の関係。たとえばこういうやりとり。
 ハリーは死体の検死のために訪れた黒人町パール・クリークで、待っていろという父ジェイコブの言いつけを破り、屋根板の穴から解剖を覗き見る。帰り道、小休止のために立ち寄った雑貨屋のポーチで父ジェイコブが静かに口を開く。

「ハリー」
「はい」
「おれの言ったとおりにしたほうがいい。大人になれば自分の好きなようにすればいい。法の定めと神の教えにそむかないかぎりはな。だが、子どものあいだは、おれの言ったとおりにしろ」
すると、パパは私に気づいていたのだ。「はい」
私たちはまた食事を続けた。私はたずねた、「鞭で打つの?」
「いいや、もうそんな子どもだましが通用する年齢じゃないと思わないか?」
「そうだね」
「とにかく、そうなんだ。もっと年相応に振る舞えば、おれも年相応に扱ってやる。それでいいか?」(p.80)

 ランズデールといえば反射的に「ハップ&レナード」シリーズを思い出すが、こういう作品もあるとは。なんとも多彩な作家である。本作はとくにロバート・R・マキャモンの『少年時代』に涙した人におすすめしたい。
 なお、少年ハリーの相棒トビーは冒頭に「ハウンドとテリアの雑種」とある。

★★★★☆(2003.3.25 白犬)


テキサス・ナイトランナーズ
The Nightrunners  4-16-752797-9
佐々田雅子・訳 文藝春秋/文春文庫 705円


 2002.3.10初版。原著(c)は1987年。ランズデール初期の長篇作品。
 真っ黒な、というか、邪悪な、というか。とにかくたいへんえげつない小説。暗黒小説とサイコホラーが合体したような本です。
 どーしよーもない馬鹿暴力少年犯罪者たちが人間を“狩る”んですね。強姦したり殺したり。狙われているのが平和主義者の夫婦。妻の方はすでにやつらに強姦された経験があり、夫婦仲はしっくり行ってません(そりゃ当然でしょうな)。
 暴力少年団は、仲間が逮捕されたという恨みでその夫婦を殺しに出向くわけです。困ったもんだ。
 なにしろ暗黒で暴力で極悪非道ですから描写にも情け容赦がない。イイやつじゃんここから活躍しそうじゃん、ってやつが簡単に殺されたりする。なんとも救いがない。
 さらにサイコホラーな味つけがされているので、不気味でもある。のですが、私としてはサイコホラー部分はあまり感心しませんでした。むしろ暴力・邪悪・暗黒だけで突っ走ってくれたほうが緊迫感が持続したのではないかと。
 しかし、ノワール系ならなんでもかんでも馳星周に解説を(しかも具にもつかないようなエッセイもどきを)書かせるような風潮はなんとかならんもんかな。まったく。

★★★☆(2002.4.3 黒犬)


人にはススメられない仕事
Rumble Tumble  4-04-270106-X
鎌田三平・訳 角川書店/角川文庫 686円


 2002.1.25初版。原著(c)は1998年。《ハップ&レナード》シリーズの(訳されているものとしては)4冊目。まだ1冊目が出てないのな。早く出せ角川。もちろん最新の5冊目も。
 というわけでハップとレナードです。その説明でわかる人は読め。わかんない人は……なにか日々鬱屈していることがあるんだったら、『ムーチョ・モージョ』(角川文庫)から読み始めるといいと思います。どうなってもしらんけどな(笑)。
 今回は、ハップの恋人ブレットの娘(娼婦だそうで)を助けにいくという話。もちろんドタバタだ。下品だ。でもハップがちょっと元気ないですね。こんなヤツだったっけか。次作ではもっと積極的に暴れてほしいと思いました。

★★★☆(2002.3.28 黒犬)


『バッド・チリ』に続く「ハップとレナード」シリーズ、4作目か。
 ハップはクラブの用心棒をしつつ、親友レナードと恋人ブレッドの好意にすがって生きる毎日。だが例によって安穏な日々は続かない。気がつくとハップはブレッドの娘ティリーを売春宿から救い出す旅に出ていた。赤毛の小男や、バイク乗りのギャング団を相手に、ハップとレナードの奮闘がまた始まる。珍しく“日本人”が出てくる。

「いや、だがおれの土地にいるプレイリー・ドッグだ」
「つかまえたあとで、こいつらをどうするんだ?」
「売るんだ」
「誰が買うんだよ」
「日本人がおとくいさんだ。このちび一匹に五百ドル払うこともあるんだぞ」
「やつら食うのか?」
「ちがうちがう。ペットにするんだ」(p.171)

 ややパワー不足という感じだが、シリーズ次作がもうすぐ出るそうなので、つなぎということで。そうそう、本作で「世界一頭のきれる黒んぼ」レナードに義理の息子ができる。どういう息子かは読んでのお楽しみ。

★★★☆(2002.2.25 白犬)


バッド・チリ
Bad Chili  4-04-270104-3
鎌田三平・訳 角川書店/角川文庫 800円


 2000.9.25初版。お待ちかね、ランズデールの新作。といいつつ(c)は1997年。
 なぜか、アンドリュー・ヴァクスに捧ぐという献辞が。おともだちなのか?
 それはさておき。
 例の中年禿白人ハップとゲイ黒人レナードのシリーズ。あいかわらず下品です。狂犬病のリス(!)にかまれたハップ、恋人ラウルに逃げられたレナード、どちらも最低な状況から今回の話ははじまる。ラウルの新しい恋人が殺され、レナードに容疑がかかる。保険で治療費をまかなうために入院しているハップは気が気ではない。病院を抜け出して自宅に帰ってみると……。
 どうにもしっちゃかめっちゃかな展開なんですが、飽きさせない。っつーか、これで飽きるようじゃなにを読んでも飽きるのではあるまいか。いいすぎか。
 いやー堪能しました、「下品」を。

★★★★☆(2000.10.4 黒犬)


凍てついた七月
Cold In July  4-04-270103-5
鎌田三平・訳 角川書店/角川文庫 724円


 1999.9.25初版。ランズデールだランズデールだわーい。《ハップ&レナード》のシリーズの新しいのはまだだが、とりあえず新しいのが読めてよかったよかった。原著の刊行は89年だけどな。ブレイクしたのが最近だからしょうがないけど、ちゃっちゃか出してほしいもんである。
 さて。
 リチャード・デインという田舎町の額縁屋が、ある晩泥棒に入られて、やむをえず射殺してしまった。そいつのお父さんベン・ラッセルってのが悪いヤツで、折悪しく刑務所から出所してきたところでありまして、よせばいいのにデインは、泥棒の葬式にいって会ってしまう。すごまれたデインは恐怖におびえる。……という、まあこのままいけばよくある話なんですが、そうは問屋がおろさない。あとは読んでのお楽しみ。
 おもしろいッ。
 わずか269ページ(本文最終)という薄さですが、中身はみっちりつまっています。最終的にあつかうことになる題材は、最近日本で出版された某ハードボイルド作品に近いんですが、アレとは全然違う(世間様の評判はいいみたいだけど、オレはあんまりいいと思わなかったんだよなあ)。一線を越えるの越えないのとうじうじ悩んだりはしないのだ(悩むけど)。
 まあ読んでくれたまえ。
 しかし「解説」(三橋暁)に頻繁に出てくる「サウザン・ゴシック」ですが、南部ゴシックとカッコ入りでも書かれているから“Southern”ですよねえ。どうも違和感なんですが、サザン・オールスターズに毒されてしまっているわたしが悪いんでしょうか?

★★★★(1999.10.17 黒犬)

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last updated : 2003/11/24
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