【長篇】
悪徳の都(上・下)
最も危険な場所(上・下)
狩りのとき(上・下)
魔弾
【短篇集】
【エッセイ・NF】
Hot Springs 4-594-03077-7 4-594-03078-5
公手成幸・訳 扶桑社/扶桑社ミステリー 上下各781円
2001.2.28初版。原著(c)は2000年。
ほんとうは『最も〜』よりこっちのほうが古いんだけど、読み忘れてしまっておりました。
《アール・スワガー》シリーズ。アール・スワガーというのは、ボブ・リー・スワガーのパパです。これが第一作で『最も危険な場所』が二作目ということらしい。
第二次世界大戦中硫黄島で大活躍したアール。勲章をもらったものの、失った仲間や部下を思って酒に逃げるしかない彼をしゃきっとさせたのは、ギャング摘発部隊を鍛え上げろという依頼。ターゲットは、賭博と売春のはびこる悪徳の都“ホット・スプリングズ”を支配するオウニー・マドックスとその一味。あとは本編をお楽しみあれ。
というわけで、古き良き時代(そうか?)の警察vsギャングの本筋に、いろんなところから集めた新人を鍛える様子、さらにそこで思い悩む若き隊員たち、死んだアールの父や弟についての過去、ボブ・リー・スワガーの誕生などなど、趣向は盛りだくさんで飽きさせません。
そして誤植の扶桑社は健在でした。
カバー袖、主人公の肩書きが「先任替長」。本文冒頭では正しく「曹長」になっていますが。なによりヒドいのが、井家上隆幸の解説。手書き原稿だったのかねえ。
・昨日年後、(p.449 昨日午後)
・ベトナム反線運動(p.450 反戦運動)
・ブラヴォ―(p.450 ブラヴォー 細かいですが音引きとダーシの違いね)
・豪も揺らいではいないのである。(p.452 毫も)
解説者も編集者も、だれも素読みをしなかったとしか思えない。そういう姿勢というのはいかがなものか。
★★★★(2002.9.3 黒犬)
1946年、硫黄島の戦功により名誉勲章を授与された元海兵隊先任曹長アール・スワガーの前に二人の男が現れる。二人はギャングが牛耳る街ホットスプリングスの浄化のため、アールに摘発部隊の訓練を依頼。ホットスプリングスの陰の帝王マドックスは、スワガー率いる摘発部隊の急襲を受け大打撃を被る。怒りに燃えた陰の帝王は凄腕の武装強盗団を呼び寄せ復讐戦を挑む。
アール・スワガーは『極大射程』ボブ・リー・スワガーの父。大河小説だったんですね。息子ボブは本作の最後のほうで生まれます。戦いを終えたアールが生後十ヶ月のボブを抱いて、「この子は大学に行かせる。この子に海兵隊は無用、銃撃を浴びて、藪を逃げ回るようなことはさせない。弁護士かなにかそういったものにならせて……」などと希望を膨らませるが、そうはいかないのだった。スワガー家の血は濃い。
さて、例によってスペック解読愛好者向け描写満載。少しだけ引用。
「それは戦闘用拳銃で」老人がいう。「現存する最良のものだ。コックト・アンド・ロックトで携行しても、完璧に安全だ。遊底は研磨されており、子猫がミルクをなめるようになめらかに弾を薬室へ送り込む。引き金は、歯切れのよい射撃ができるよう造成されている。七発装弾の弾倉の再装填は二秒、もしくはそれ以下で、迅速に行える。もちろん357マグナムを持ちたければ話は熱だが(後略)」(上巻 p.149)
コックト・アンド・ロックトってなに? 続きは『最も危険な場所』で。
★★★★(2002.10.22 白犬)
Pale Horse Coming 4-594-03571-X 4-594-03572-8
公手成幸・訳 扶桑社/扶桑社ミステリー 上下各848円
2002.5.30初版。原著は(c)2001。
実は、《アール・スワガー》シリーズは『悪徳の都』のほうが先です。こちらは前作から5年ほどたった後の話。読む順番が逆になってしまいましたが、まあいいでしょう。
まず出てくるのはアールの親友で弁護士のサム・ヴィンセント。彼が依頼を受け向かったのは、ミシシッピ州のティーブズ。その町は有色人種用刑務農場で成り立っており、一度入ったら二度と生きては出られない。保安官にとらえられたサムを、アールが救い出すのだが、もしろんそれだけで話は終わらない。刑務所の異様さが次第に明らかにされ、そこに隠されたおぞましい秘密も露になっていく……。
これと『悪徳の都』を続けて読んでしまったのですが、そうするとやはり『悪徳』のほうが面白い。アールが立ち直っていくさまとかがね、胸を打つわけです。こちらもアールは闘うんだけど、でもそれはスーパーマンとしての闘いに近い。危機の切り抜けかたも、終盤に向けての強者招集も、“お約束感”がぬぐえない。シリーズものの宿命ではあるのだろうけれど。
あとは、訳が古くさいな。話の舞台が1951年ということでちょっと昔ですから、かろうじてなんとかなってるけれど、これが現代だったら苦しい。
しっかしヒドいです扶桑社。カバー袖をごらんくださいませ。主人公の紹介。“アーカンソー州警察巡査部著”。本文冒頭の人物紹介も同じ。上下巻ともに。たぶん同じデータ流用してるんだろうけどさ。それにしてもひどい。カバーだけならまあよくあること(おいおい)だけど、本文の人物紹介まで間違っちゃまずいでしょう。(このあと読む『悪徳の都』はもっとヒドかったのだが)。
★★★☆(2002.9.1 黒犬)
1951年、州警察巡査部長のアール・スワガーの親友で弁護士のサムは、人物調査の仕事を引き受ける。調査に赴いたのはミシシッピー州ティーブスという黒人町。到着早々、不当逮捕されたサムは、入ったら生きて出られないと噂されている有色人種用の警務農場に収監されるが、アールの助けで脱出に成功する。だが、後に残ったアールは追っ手に捕まり、地獄の日々を送ることに。凄絶な拷問に耐え、なんとか脱出に成功したアールは、邪悪な町を殲滅すべく凄腕のガンマン6人を招集。ミシシッピー州ティーブスで壮絶なガンファイトが始まる。
これはもう娯楽大作といっていだろう。訳者もあとがきで、「アール・スワガーとその仲間たちによる、最後のOK牧場の決闘であると同時に、万能型戦士アールの格闘シーンがふんだんに盛り込まれた、いわば総合戦闘術の醍醐味を満喫できる作品」と述べている。ガンマン6人はそれぞれに魅力的だが、とくに最高齢のエド・マグリフィンいい。彼の持ち場での活躍にはシビれた。
速さはなめらかさにある。エドはきわめてなめらかであり、二丁のリボルバーは意志によって動かされたかのように早く、彼の左右の手におさまっていた。(中略)彼は五分の二秒たらずで五発を撃ち、ひとつの轟音のように一体化した銃声がこだまして、頭上の垂木から埃が舞い上がり、棚のグラスがカタカタと揺れた。これは彼の速撃ち世界記録をこえるどころか、はるかにしのぐ速さだった。
射殺した相手は三名。最初はオーピー(左心室に命中)、つぎはダライアス(喉笛)、そのつぎはフェスタスという男(大腸神経叢)だった。(下巻 p.341( )内は本文ママです念のため)
大腸神経叢ってどこ? ハンター自身の予告によると、アールは次作ではハヴァナで秘密警察や共産主義者やギャングに命を狙われることになるらしい。アール・スワガー・サーガ次作大いに期待。
★★★(2002.10.23 白犬)
Time To Hunt 4-594-02773-3 4-594-02774-1
公手成幸・訳 扶桑社/扶桑社ミステリー 各781円
1999.9.30初版。おまちかね、スーパー・スナイパー(笑)“ボブ・リー・スワガー”おじさんシリーズ最終作(たぶん)。原著の刊行順(「極大射程」「ダーティ・ホワイト・ボーイズ」「ブラックライト」……もうどれがどれやら)とはぜんぜん違って出てきたので、わけわかりませんが(それに番外編もあるし)、いや、あいかわらず元気げんき。ま、スワガーおじさんのスーパーマンぶりを堪能できればなんでもよろしい。
今回はスワガーのベトナム戦争時代も出てきて、また別のたのしさがありました。そっかあ、ダニー・フェンとはこういうやつだったかあ。上下二巻本ですが、さくさくと読み終えられました。
★★★★(1999.10.31 黒犬)
The Master Sniper 4-10-228607-1
玉木亨・訳 新潮社/新潮文庫 857円
2000.10.1初版。原著(c)は1980年。なんと20年前ですが、それもそのはず『極大射程』のハンターの処女作なのであった。
原題は「マスター・スナイパー《狙撃の名人》」なのに、まるでオペラの「魔笛」みたいな邦題ですが、じつはぴったりな訳。読み終えるとわかる。
舞台は第二次大戦末期。崩壊寸前のドイツ代表、親衛隊の誇る狙撃の達人レップ。そして米軍代表は人妻に横恋慕中のリーツ。英軍代表はイヤな感じのアウスウェイス。秘密兵器を背負って極秘任務を成し遂げようとするレップを、たまたま嗅ぎつけたリーツとアウスウェイス(と脳天気なアメリカ兵士ロジャー)は止めることができるかどうか。
最近の(スワガー・シリーズのような)深みには欠けるように思えるが、ユダヤ・イスラエル問題、親衛隊の狂気、などなど、読みごたえは充分。
スワガー・シリーズも、ちかぢか父スワガーを主人公にした新作がでるようなので楽しみだ。
★★★☆(2000.10.10 黒犬)
last updated : 2003/2/1
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