スチュアート・ウッズ(Stuart Woods)

【長篇】
パリンドローム
不完全な他人
囚人捜査官
草の根
デッド・アイズ

【短篇集】

【エッセイ・NF】





パリンドローム
Palindrome  4-16-766109-8

矢野浩三郎・訳 文藝春秋/文春文庫 781 円


 2002.7.10初版。単行本は97年11月文藝春秋刊。
 パリンドロームとは「回文」のことです。
 ええと、DVな夫となんとか別れることができた写真家のエリザベスは、ジョージア州の島カンバーランドにやってきた。不思議な双子(の片割れ)と知りあい、新しい人生を踏み出そうとしていたのだが、そのころ元夫は……というサスペンスです。
 展開はだいたいわかっちゃうんですが、そこはそれ、ウッズのことですから、なかなか魅力的なじいさんやらその孫である気のいい姉ちゃんやら恐ろしいワニやら登場人物も多彩で飽きさせません。ウッズ作品のなかでは水準をやや下回っているかもしれないけど。
 うーん、今回デラノに気がつかなかったなあ。

★★★(2002.8.17 黒犬)



 単行本は97年同社刊。パリンドロームとは回文のこと。「仇が来たか」のように上から読んでも下から読んでも同じになる語句。夫の暴力から逃れるため、大西洋に浮かぶ美しい島カンバーランドにやってきた女流写真家のエリザベス。島で彼女は不思議な双子の青年と出会い惹かれてゆく。逃亡の身を忘れかけたころ、彼女の行方を知る者が次々と殺されて――あいつが私を追ってくる。
 化け物のような暴力夫に追われる元妻という同じ設定だと、メジャーどころではS・キング『ローズ・マダー』あたりか。ローズ・マダーの暴力夫は刑事だが、本書の暴力夫はステロイドで頭がイカれたプロフットボール選手。脳みそも筋肉という感じでこわい。島のオーナーに得体の知れない女を易々と受け入れさせたうえに、遺言状の連署人にまでしてしまうという荒技を「美人は得」というだけで片づけるわけにはいかないが、本土で繰り広げられる連続殺人や謎の双子のこともあるから忙しい忙しい。さらに面倒くさいヤツはワニに喰わせてしまうというウルトラCまで用意されているから楽しいぞ。
 カンバーランドは米ジョージア州にある実在の島。96年にジョン・F・ケネディ・ジュニアがキャロリン・ベセットと結婚式を挙げたことで有名。彼らは99年にジョン自身が操縦する小型機の墜落事故でケネディ一族の不吉な歴史にまた新たな死を刻んだ。さらにプロフットボール選手の妻殺し(疑惑)といえばO・J・シンプソン。原著の刊行は事件の3年前とあるが、ポジションも同じランニングバックだし、なにやら寒気がしてくるようでもある。

★★★★(2002.7.22 白犬)



不完全な他人
Imperfect Strangers  4-04-284203-8
峯村利哉・訳 角川書店/角川文庫 819円


 2001.8.25初版。原著(c)は1995年。
 ヒチコックの「見知らぬ乗客」ばりの交換殺人を約束した酒販会社の重役と画廊経営者。互いの妻を殺すという計画を立てるが、当然のことながらそううまくいくわけはない──。
 スチュアート・ウッズのサスペンス、でございます。『警察署長』や『草の根』あたりの、かっちりした作品に比べれば質は落ちるが(多分著者も余技というか力を抜いて書いてるんだろうな。これは否定的意見ではないけど)、おもしろい。
 なにしろ主人公が金持ちってのが気に入らない(笑)し、この手の話なら主人公に悲惨な結末が待っているってこともないのもわかっちゃうんだけど、どう決着をつけるのかわくわくしました。しかしまあ最後のほうはバタバタと片づけちゃいましたね旦那、という感じだけどね。でもまあよろしいんじゃないでしょうか。
 お約束でおなじみジョージア州デラノも、ある登場人物の出身地ということで出てくるのを見つけられて、ちょっとうれしい。
 帯表1に“巨匠初のサイコスリラー!”とあるが(表4にも)、サイコかなあ。ふつうのサスペンスでは。それにサイコスリラーとしては94年に『デッド・アイズ』(しかも角川文庫なのに)というのを書いているから〈初〉とはいえないと思うがなあ。でも原著でそう煽ってるらしい(訳者あとがきより)からしょうがないのか。

★★★★(2002.3.17 黒犬)



 二人の男はロンドン発NY行きの機上で出会う。キンソルヴィングは冷え切った妻との関係が原因で地位と名誉を失おうとしていた。画商のマーティンデイルも妻とのトラブルで窮地に立たされていた。酒を酌み交わし、ヒッチコックの映画を見た二人にある解決策が浮かぶ。
『警察署長』S・ウッズの交換殺人物語。ちょっとひねり足りない気もするが飽きずに読める。相変わらずというか、金持ち気分満点でうまそうです。

 冷蔵庫にはスモークサーモンと卵とキャビアがあった。スクランブルエッグとトーストを作ってサーモンの皿に盛り、前菜のキャビアには小さな銀のスプーンを添える。(中略)サンディはワイン棚へ行き、クリュグの八三年物を選んだ。(中略)「…このにおい、なんていうんだっけ?」「酵母臭」「そうそうあなたワイン業界の人でしょう?」「罪深くも」(p128)

 他にもっとこってりた「うまそう」もあるけど、こういう簡単なお食事の場面のほうがよりうまそうである。食いしん坊バンザイの一冊。

★★★(2001.10.4 白犬)



囚人捜査官
Heat  4-04-284202-X

峯村利哉・訳 角川書店/角川文庫 819円


 すごいな邦題。「スケバン刑事」みたいだ。ウッズのハード・サスペンス。
 無期懲役おつとめ中の元麻薬取締捜査官ジェシーに、かつての上司が取り引きを持ちかける。彼に与えられた密命は、過激なカルト教団への潜入。すでに二名の捜査官が行方不明になっているという。交換条件は大統領恩赦。ジェシーに選択の余地はない。
 強く賢く抜け目ないスーパー・ヒーローは、すぐかっとなるのが玉にキズ。ウイークポイントは例によって女こども。恋人の裏切りを期待したが、残りページにそんな余裕はなかた。ちぇっ。「駆け引き系」好きにおすすめ。林家こぶ平の解説いらぬ。

★★★☆(2000.10.4 白犬)



 2000.7.25初版。原著(c)は1994年。
 なんだか二時間ドラマかなにかのようなタイトルですが、ウッズです。これまた本流ではない傍流系作品。とはいっても『デッド・アイズ』なんかに比べればずいぶん上等ですな。
“囚人捜査官”といってももともとが警官。だから「48時間」みたいな感じではないっす。悪徳警官が罠にかけられて同僚殺しの罪で刑務所に送られる。そこから極秘裏に出る条件として、ある町の極右組織への潜入する(しかしウッズも極右組織が好きだねどうも)。別の名前別の履歴をもつ一般人として、そのコミュニティに入り込み、組織のトップ三人を逮捕する証拠を集めるわけですが、ジェシー(囚人捜査官ですな)はそれに失敗しても刑務所に逆戻りはしたくないわけで、なんとか逃げ道を作ろうとする。そのうえ下宿の家主である美貌の未亡人とも……。
 そんなに物事うまくいくかねと思わないではないですが、サスペンスの盛り上げかたはさすがウッズ。主人公を完璧な善人にしなかったのも正解だったと思います。
 解説はなぜか落語家の林家こぶ平。ごく普通の解説でしたが。

★★★★(2000.8.18 黒犬)



草の根
Grass Roots  4-16-752760-X

矢野浩三郎・訳 文藝春秋/文春文庫 876円


 2000.8.10初版。原著(c)は1989年。告白します、うちのどっかに単行本あります。文庫になるまで読まないなら買うなよ。すいません。
 いやしかしおもしろいねウッズは。最近のB級映画みたいなのはあまり評価できないけど、やはりデラノ・シリーズというかリー・シリーズというかこの系統はおもしろい。あのウィル・リー(ヨットに乗ってた子だよねえ。早く『風に乗って』文庫にしてくださいよ>早川書房)がこんなに立派になって。
 なかなか盛りだくさんの内容で、ひとつやウィルが上院議員選挙に立候補してあれこれ苦労するという政治サスペンス、そして極右団体の凶悪テロリストをアトランタ市警の刑事が追いかけるという警察小説、さらにウィルが弁護することになった黒人少女殺害事件裁判の駆け引きという法廷小説、この三本の柱がからみあって骨太な小説を構成しているのでありました。
 うーん、やっぱこのシリーズをもっと読みたいっす。

★★★★(2000.8.14 黒犬)



デッド・アイズ
Dead Eyes  4-04-284201-1

峯村利哉・訳 角川書店/角川文庫 857円


 1999.12.25初版。原著(c)は1994年。
 ウッズを読むのは久しぶりです。『警察署長』からのあの一連のシリーズ(サガ、ですか)はおもしろかったなあ。その当時に比べると、パワーが落ちているのははっきりしており、だから数年前にニューヨークを舞台にしたやつ(タイトルなんか忘れてるし。飛び降り自殺かなんかの話だった)以来、遠ざかっていたのですが。
 主人公は女優。工事中の新居のテラスから落ちて失明。彼女はストーカーにつけ狙われていて、そいつがどうもヤバいことしそうだというので刑事登場。はたしてストーカーは誰なのか、視力を失った彼女は生き延びられるのか、というような話。
わかりやすく、仕掛けもありきたりといえばありきたりなんだけど、すいすい読めるし飽きないです。

★★☆(2000.6.17 黒犬)

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last updated : 2003/2/7
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