コニー・ウィリス(Connie Willis)

【長篇】
犬は勘定に入れません あるいは、消えたヴィクトリア朝花瓶の謎
航路(上・下)
ドゥームズデイ・ブック(上・下)
リメイク






犬は勘定に入れません あるいは、消えたヴィクトリア朝花瓶の謎
To Say Nothing of the Dog, or, How We Found Bishop's Birdstamp 4-15-208553-3
大森望・訳 早川書房 2800円


 オックスフォード大学史学部の大学院生ネッド・ヘンリー。第二次世界大戦中、空襲で焼失したゴヴェントリー大聖堂の復元計画に駆り出された彼の任務は、大聖堂内にあったとされる“主教の鳥株”を見つけること――だが、20世紀と21世紀を行き来しているうちに過労で倒れ、二週間の絶対安静を言い渡される。しかし再建プロジェクトのスポンサー兼責任者の猛女レイディ・シュラプネルにとって、過労ごときが言い訳になるはずもなく。同情した史学部のダンワージー先生は、ネッドを19世紀の「完璧な休暇スポット」ヴィクトリア朝に派遣することを決める。“時代差ぼけ”状態で事前講習を受けるネッド。ダンワージー先生の言う「子供でもできる単純明快な仕事」が、時空連続体の存亡を賭けた任務だということなど夢にも思わずに――。
 ヒューゴー賞、ローカス賞のほかにも、クルト・ラスヴィッツ賞(ドイツ)、イグノトゥス賞(スペイン)など数々の賞に輝いた作品。前作『ドゥームズデイ・ブック』の姉妹編だが、未読でもだいじょうぶ。
「訳者あとがき」に「抱腹絶倒のヴィクトリア朝タイムトラベル・ラブコメディ」とあるが、抱腹絶倒かどうかは読者の好みによるかも。冒頭のドタバタは相変わらず。このとめどもなさについて行くにはかなりのパワーが必要。
 じぶんが登場したせいで、結婚するはずだった誰かさんと誰かさんが出会わない! という、どこかで聞いたような話を軸に、冒険あり、謎解きあり、恋愛ありのSF大作。2800円はお買い得。
 犬と猫出てきます。愛すべきテニスン引用しまくり青年テレンスの飼い犬「シリル」はブルドッグ。「かあいいジュジュ」ことプリンセス・アージュマンドは「顔の白い黒猫」。
▽訳者のコニー・ウィリス日本語サイト
 http://www.ltokyo.com/ohmori/willis/

★★★★★(2004.6.1 白犬)


航路(上・下)
Passage  4-7897-1933-2 4-7897-1934-0
大森望・訳 ソニーマガジンズ 上下各1800円


 認知心理学のジョアンナはコロラド州デンヴァーの大病院で、臨死体験(NED=near-death experience)の聞き取り調査をしている。目的はNEDの原因と働きを科学的に解明すること。一方、神経内科医のリチャードは、疑似NEDを人為的に引き起こすという臨死体験プロジェクトを立ち上げ、ジョアンナに協力を求める。だが実験はトラブル続出。暗礁に乗り上げたプロジェクトを救うため、みずからが被験者になることを決意するジョアンナ。彼女が疑似NEDの中で赴いたのは思いもよらぬ実在の場所だった。私はここを知っている。でも、どこだったのか思い出せない――。
 話題の本。著者コニー・ウィリスは1945年生まれ。ヒューゴー賞、ネビュラ賞の最多受賞歴を誇る“アメリカSF界の女王”と呼ばれるすごい人。「臨死体験」というオカルトチックなテーマに引いてしまう人も多いだろうが、それを科学的に解明しようとする試みが本作の肝である。
 帯に「読み出したら止まらない!」とあるが、これは本当。この比類なきスピード感には、主人公ジョアンナの親友ヴィエルも勤務するERを訪れるシーンが大いに貢献している。次々と搬入される救急患者、鳴り続けるポケベル、そういえばあたしまだお昼食べてないわ、そんなことよりこっちが先よ、そっちじゃないわこっちが先よ、心肺蘇生開始! とまあ、NHK放映のテレビシリーズ「ER」を思い浮かべていただくといいだろう。そんなごった返した舞台設定の中にありながら、決して輝きを失わない各キャラクターの配し方は見事としか言いようがない。脇ではミセス・ダヴェンポートいい。いるいるこういうオバハンという感じ。
 訳者あとがきに「本書はSF性は希薄」とあるが、SFを苦手分野とするわたしにとっては、過去に読んだヒューゴー賞、ネビュラ賞作品と同類の作品であった。読後、少し利口になったような気がした。鈍った脳のシナプスを発火させたい向きに、おすすめ。
▽訳者・大森望によるコニー・ウィリス関連サイト
 http://www.ltokyo.com/ohmori/willis/
▽同ネタバレ掲示板
 http://bbs5.cgiboy.com/p/64/00311/

★★★★☆(2002.10.19 白犬)


ドゥームズデイ・ブック(上・下)
Doomsday Book  4-15-011437-4 4-15-011438-2
大森望・訳 早川書房/ハヤカワ文庫SF 各940円


 西暦2054年。すでにタイムトラベル技術が確立され歴史研究に利用されている。オックスフォード大学史学部の学生キヴリンは、実習の一環として、前人未踏の14世紀に送られる。だが、彼女が目的地に到達する前にタイムトラベルの担当技術者が正体不明のウィルスに感染して意識不明の重体に。キヴリンの師ダンワージーは教え子を救うために東奔西走するが、おりしもクリスマスシーズンで、かわりの技術者はつかまらない。間もなくオックスフォードの街に隔離措置がとられる。
 一方、14世紀にたどりついたキヴリンも到着と同時に発病し意識不明に。通りすがりの“時代人”に救われるが、タイムトラベルの出入り口となる「降下点」がわからなくなってしまう。ダンワージー先生、早く助けにきて――そんな彼女の前にさらなる危機が立ちふさがる。
 英語圏SFの三大タイトルとされるヒューゴー賞、ネビュラ賞、ローカス賞の三冠を独占、さらにドイツ、スペイン、イタリアのSF賞を受賞したというすごい作品。
 ひとりぼっちで700年もの過去に取り残されるという、なんとも心細い話。大学の「実習」といっても命がけである。腕にコーダという記録媒体を埋め込んだキヴリンは、出発前にカレッジの考古学者にこんなことを言う。

「でも、もしなにかまちがいがあったら、わたし、教会墓地に埋葬されるようにしますね。あなたがイングランドの半分を掘り返したりしないですむように」(下巻 p.354)

 つまりキヴリンが過去で死ねば、現代の教会墓地跡地から遺骨が発掘されるということである。こんな実習いやだよあたしは。
 隔離宣言下のオックスフォードのどたばたには少々倦むが、だからこそキヴリンの一人語りが冴えるのかもしれない。最後の一行には思わずほろりとさせられる。読み応えあり。

★★★★☆(2003.6.22 白犬)


リメイク
Remake  4-15-011275-4
大森望・訳 早川書房/ハヤカワ文庫SF 580円


 1999.6.30初版。読みながら、この本を形容するのには「キュート」という言葉がぴったりだねえと思っていたら、訳者あとがきで「キュートでせつないミュージカルSFラブストーリー」と書かれていました。ちくしょう。
 それはさておき。
 近未来における映画制作はすべてデジタル俳優によるリメイクか続編ばっかしで、実写フィルムをつくってるのは中国あたりしかないのでありました。主人公はそのリメイク技師で、アルコール類禁止ってことになれば過去の映画から酒関係を全部消してしまわなければならないのだ。こりゃ大変じゃわい。そこへ、アステアと踊りたいというダンサー志望の女の子が出てきて……って話。
 わたしゃ映画マニアじゃありませんので、出てくる映画のうち観たことあるのはごくわずかなんですが、それでも楽しめました。ついでにいうとSF者としても全然薄いので、どういう仕組みだったのかもよくわかってません。じゃあなにが面白かったんだよと問われると困るが。
 個人的には「ビバリーヒルズ・コップ15」とか観たいかも(笑)。
 余談。巻末の映画タイトル一覧をながめていて「影なき男の息子/Song of the Thin Man」というのがあり、息子だったらSonじゃねえの!?なんて要らぬことを思ってしまいました。でもIMDb(http://www.imdb.com/)で検索したらちゃんとSongになってやんの(http://us.imdb.com/Title?0039853)。じゃあ「影なき男の歌」なのかと思えば、ちゃんと影なき男の「息子」も出てくるみたいなので邦題が間違ってるわけでもなさそうだし。変なの。

★★★☆(1999.8.3 黒犬)


 デジタル技術の進歩で、データ化されたかつてのスター俳優を使ったリメイクばかりがつくられるハリウッド。映画マニアのトムは学生寮のパーティで新入生のアリスに出会う。フレッド・アステアが死んだ年に生まれた彼女の夢は古い映画の中で踊ること。トムが提案した安易な方法に満足できないアリスは去る。だが、しばらくの後、トムは1950年代につくられた映画の中で踊るアリスを見つける。いったいどんな方法で?
 古い映画や、映画の中の名台詞がたくさん出てくるため、巻末約40ページが訳注という親切な本。訳注だけでもちょっとした資料になる。
 さて、かんじんのお話のほうはというと、アイディアはすばらしいが、とくに会話文を中心に、作品全体に漂う“ほとばしるノリ”みたいなものが、わたしのようないらいら病患者にはまだるっこしくてたまらぬ。たとえばこういうところ。

「それでヘッダ」ベースボールキャップ男やタイムトラベル役員に話しかけるよりかはと、僕は彼女に向かって口を開いた。「今週のコラムに書くゴシップは、ほかになにかが?」
「コラムって?」ヘッダはぽかんとした顔になった。「いつもヘッダと呼ぶのね。どうして? スターの名前かなんか?」(p.25)

「ヘッダ」についてはp10の訳注で解決済みです。さっさと話をすすめてくれたまえ。
 こういうやり繰りを楽しみたい人向き。

★★★☆(2003.6.23 白犬)

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last updated : 2004/7/19
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