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December 05, 2005

高村薫『新リア王』(上・下)○

 2002年に刊行された『晴子情歌』に続く、大河小説の第2部。時代は約10年後。物語は晴子・章之の母子から、榮と章之の父子に移る。
 青森県に君臨する政治家、福澤榮は、曹洞宗の僧侶となった章之の寺を突然訪ね、会期中の国会から失踪した経緯を語り始める。一方、章之は永平寺での修行の日々を語る。宗教家と自民党代議士。このかけ離れた父子の対話の行き着く先は――。
 高村薫の政治小説。竹下登が権力を掌握しつつあった80年代半ば。「小説中の政策課題は現実のもの」と著者本人が語っているように、事実に虚構を織り交ぜるという手法をとっている。実名で多くの政治家が登場する榮の話は、永田町方面に暗い読者には相当つらいと思われる。章之の話もそれに輪をかけたように難解であるが、読み進むにつれ、この長い間疎遠だった父子の実像が圧倒的迫力を持って立ち上がってくる。子に背かれる榮は、暴君リア王そのものである。最終章で集まった身内ひとりひとりを断罪していく榮の言葉は深く胸を打つ。
 すばらしい。読了した時点で本年No.1決定。第3部は章之の子、秋道の物語になるらしいが、これほど待ち遠しい思いをするのはひさしぶり。この3部作は国内小説を代表する作品になるだろう。

★★★★★(2005.11.14 白犬)

新潮社 上・下各1900円 4-10-378404-04-10-378405-9

posted by Kuro : 01:49

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comments

TBありがとうございます。
それぞれのインタビュー記事紹介、たいへん参考になりました。
上下刊、座卓に置かれたまま、まだ着手していませんが、正月休みに読み進める予定で楽しみにしています。

投稿者 artisan : December 5, 2005 07:52 AM

TBありがとうございました。
なかなか読み応えのある現代文学でした。
高村薫の到達点といった作品でしょう。

投稿者 よっちゃん : December 5, 2005 09:41 AM

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