ロバート・R・マキャモン(Robert R. McCammon)

【長篇】
魔女は夜ささやく(上・下)
遙か南へ
少年時代(上・下)

【短篇集】

【エッセイ・NF】




魔女は夜ささやく(上・下)
Speaks The Nightbird  4-16-322120-4 4-16-322130-1
二宮馨・訳 文藝春秋 上下各2667円


 17世紀末のアメリカ南部。新興の開拓地ファウント・ロイヤルで凄惨な連続殺人事件が起こる。逮捕された被害者の妻には“魔女”との噂があり、牢に入れた後も悪夢にうなされる者が相次いだ。町の創設者でもある町長は、公正な裁判のため判事を呼ぶことにする。降り続く雨の中、海辺の町チャールズ・タウンから悪路を越えてやってきたのはアイザック・ウッドワード判事と書記のマシュー・コーベット。鼠が這い回る牢で初めて見た魔女は、皺深い老婆ではなく、若く美しい女だった。
 帯に「復活作」とあるように、巨匠マキャモン10年ぶりの新作。前作『遙か南へ』からもう10年ですよ。月日が経つのは早い。
 物語は親子ほども年の違うウッドワード判事と、本書の主人公である書記のマシューが、雨の降りしきる森の中をファウント・ロイヤルに向かうシーンに始まる。17世紀末のことだから移動手段は馬車。獰猛な野生動物やおっそろしい先住民に怯えながらの旅。二人は這々の体で一軒の旅籠にたどり着くが、そこで悪辣な主人に身ぐるみ剥がされ、命からがら逃げ出するという辛酸をなめる。
 読者はこのファーストシーンで、雨の多いじめついた土地の暗く陰鬱な雰囲気や、はるか昔の不便や不潔さといった印象を刻み込まれるだろう。衣食住など細部にわたり克明に描かれる当時の風俗は見事である。判事は“魔女”とされる女レイチェルを裁くために呼ばれるが、科学的な捜査などもちろん行われるはずもなく、証拠となるのは、悪夢を見たという数人の証言のみである。レイチェルへの思慕から、判事に逆らって真相究明に乗り出したマシューは、町中の人々から「魔女に惑わされている」と糾弾され、命をも狙われる。こんな時代いやだよあたしは。
 出すたびに「最高傑作」としてしまうのはどうかと思うが、上質なミステリー小説であるとともに、父子もの、青年の成長小説としての要素も兼ね備えた傑作であることは間違いない。登場人物が多い(「主な」登場人物だけで29人の大迫力)ので、結末を楽しむためにも丁寧に読むことをおすすめする。

★★★★☆(2003.10.13 白犬)



遙か南へ
Gone South  4-16-721861-5
二宮馨・訳 文藝春秋/文春文庫 819円


 2000.1.10初版。オリジナル(c)は1992年。
 あの『少年時代』のマキャモンです。ベトナム帰りでバツイチの主人公は、枯葉剤かなんかの影響で白血病。死ぬまで頑張って働こうと思っていたんですが、銀行の融資担当者がかわってしまい、なくてはならないトラックを渡せといわれる。逆上した彼は、オフィスをぶちこわし、かけつけた警備員からうばった銃で、あやまって融資担当者を殺してしまい、指名手配の身の上に……。
 というロードノベルです。
 彼を追うのは賞金稼ぎの二人組。こいつらが、ひとりはフリークで、もうひとりは初心者。なんとも困った組み合わせ。そのうえ顔の半分がみにくい痣におおわれた女もかかわってくるし、あやしげな人々が満載。
 展開もはやく、じっくり楽しめました。
 しかしなぜタイトルには「遥」ではなく旧字の「遙」をつかったのだろうか。謎。

★★★★(2000.1.29 黒犬)



少年時代(上・下)
Boy's Life  4-16-725436-0 4-16-725437-9
二宮馨・訳 文藝春秋/文春文庫 上619円・下667円


 1999年2月刊。これぞ小説。すばらしい。えらい。ハードカバーで出たときにこのミスの2位になったそうだが、ぜんぜん触手は動かなかった。なんか古くさそうだし、どうせ「スタンド・バイ・ミー」みたいなもんだろうと思ったりしてて。
 どころがどっこい。もっとはやくに読めばよかった。でも読まないままで死ななくてよかった。これから読む人は幸いである。すげえおもしろいから。
 ある殺人事件の謎解きという軸はあるにしても、それだけじゃ済まないのがガキんちょの生活。いじめっ子はいるしおかしな女の子もいるし転校生もいる。ありったけのエピソードをちりばめてあって飽きさせない。メインの話はちゃんと引っ張る。お化けも怪物も出てくる。こんなに大サービスして、なおかつ泣かせる。
 むかし少年だった男は読め。むかし少女だった女も読め。

★★★★★(1999.3.8 黒犬)

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last updated : 2003/10/20
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